「教育困難大学」に来る学生の残念な志望動機 必然的に起きる「5月病」に苦慮する教員たち

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以前、「教育困難大学」の学生募集戦略として、オープンキャンパスの雰囲気は非常に大切だと書いたことがある。それを裏付ける学生の「志望動機」がある。

高校生のとき見学に来たとき、食堂でカレーを食べてみて、この大学なら4年間食べるのにも困らないと思いました。後、夏に大学の説明を聞きに来たときには、外でピクニックをしている男女のグループがいて、すごく楽しそうでこの大学に志望しました。

彼は高校教員の指導もあって、高校3年時には複数回大学に足を運び、AO入試で受験した。紹介した箇所以外にも自らの志望動機をいくつか挙げているが、それらも「雰囲気がいい」などといった印象面のことばかりである。大学のカリキュラムの特徴や、就職や資格取得の指導に力を入れていることなど、この大学が志願者へのセールスポイントとしている点には、「本当の志望動機」でいっさい触れられていない。

もちろん、この内容ではさすがに合格できないので、AO入試の本番では、高校教員が大いに指導し何とか志望動機の形を整えたのだと推測される。それにしても、4年間食べることに困らないと思わせる食堂のカレーはどのような味だったのだろうか。ピクニックをしていた学生たちと並んで、このカレーは志願者確保に思いがけない貢献をしていたと言えよう。

学びに向けての意欲はほとんど感じられない

次に挙げる「本当の志望理由」は、教育困難大学では多くの学生が同様の理由を述べている、典型的な内容である。

1つ目の理由は、本学が交通の便に最も適していたからです。私は将来就職したい職業、大学生活の中で特にしたいことがなかったので、自転車でも通学できる本学を選びました。
2つ目の理由は、推薦入学の枠が空いており、確実に合格できると思ったからです。私は先述したとおり、ただ大学に入学したかっただけなので、それなら確実に合格できる入ることができればいいと考えた結果、本学への入学を志望しました。

「教育困難大学」に進学する高校生にとって、大学への通学距離の近さは大きな魅力となっている。彼らの生まれ育った家庭は経済的余裕がないことが多く、通学費用をできるだけ抑えたいという思いが強いからだ。さらに、距離が近ければ通学時間も短縮され、その分アルバイトも長時間できるとも考える。すでに多くの人々に指摘されていることだが、「地元志向」が強く、なじみのない地域や場所には行きたくないと思う若者の増加という社会現象が背景にあるのだろう。

そして、確実に入れればどこの大学でもいいという大学進学への熱意の淡白さも表明されている。失敗に終わるリスクを避け、安全・安心を求める、今時の普通の若者の多くが共有する意識は、大学進学の際にも強い影響力を及ぼしているようだ。

以上、3つの「本当の志望動機」を紹介してみた。残念ながら、どの文面からも大学での学びに向けての意欲はほとんど感じられない。5月の連休は、彼らからさらに学習意欲を奪う時期でもある。彼らの目を、いかにして学びに向かわせるか、「教育困難大学」の教員に課された任務は、そうでない大学教員に比してケタ違いに重い。

朝比奈 なを 教育ジャーナリスト

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あさひな なを / Nao Asahina

筑波大学大学院教育研究科修了。教育学修士。公立高校の地歴・公民科教諭として約20年間勤務し、教科指導、進路指導、高大接続を研究テーマとする。早期退職後、大学非常勤講師、公立教育センターでの教育相談、高校生・保護者対象の講演等幅広い教育活動に従事。おもな著書に『置き去りにされた高校生たち』(学事出版)、『ルポ教育困難校』『教員という仕事』(ともに朝日新書)などがある。

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