最も勢いのある科学「合成生物学」の最前線 コンピュータ上で生命が設計されている

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一方、もう一つの流れとして向こうを張るのが、ヒトゲノムを解読したことでも知られる孤高の科学者クレイグ・ベンターである。クレイグ・ベンターは、かつてNIHという恵まれた研究環境を飛び出すと、たった一人で自らのアイデアを実現する理想の研究所を設立し、誰にも真似できない実行力とリーダーシップでその道を開いてきた人物だ。

この人物を今なおレジェンドに押し上げているのは、ヒトゲノムを解読するより前の段階から、人工生命体「ミニマル・セル」を創り出すプロジェクトに着手していたからである。2017年末現在、一から化学合成したゲノムを持つ微生物の作製に成功しているのは、世界中でクレイグ・ベンターの研究チームだけなのだ。

この2つの流れを追うだけで十分に役者の揃った感じもするが、さすがに最もホットと言われるだけの領域、これだけでは収まらない。ゲノムを読むことから、書くことへという大きな変化の中で、CRISPRーCas9という技術が急速に台頭し、「編集すること」への注目が大きく集まってきたためだ。

「遺伝子ドライブ」とは?

本書の中で詳しく紹介されているのが、「遺伝子ドライブ」と呼ばれる現象だ。遺伝子の中には、特に生存に有利な特徴を与えるわけではないのに、50%を上回るの確率で子孫に受け継がれていくものがある。この現象を応用すれば、特定の形質を野生集団で効率的に広めていくことが可能になり、たとえばマラリアを媒介する蚊のような野外の生体個体群を人為的に改変することも可能になるのだ。

これを提案したのが、現在MITメディア・ラボに所属するケビン・エスベルト。彼は幅広い分野を把握しているジェネラリストであり、だからこそ、このアイディアに到達しえたのだという。

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