最も勢いのある科学「合成生物学」の最前線 コンピュータ上で生命が設計されている
しかしこの破壊的な技術に注目が集まっているのは、天使なのか、悪魔なのか、未だ判別のできない両義性を保持していることにも要因がある。実験室での事故が予想もつかない自然環境の変化をもたらすだけではなく、今後、生物兵器へ転用される危険性も持ち合わせているのだ。
ヒトゲノムの合成計画のような、この先どうなっていくかという展望の話とは違い、遺伝子ドライブについては、今まさに何が起こっているのかという話である。さらに不安を煽るのは、国防総省内の「DARPA」という機関が研究資金を元手に、合成生物学の領域に影響力を与えているという事実だ。
テクノロジーが欲望を生み、欲望が科学を生み出す
ここから著者は、DARPAの研究マネジメントのメカニズムを明らかにし、直接その場所へ赴き取材を行う。投げかける質問は辛辣だ。「研究プログラムの立案に軍部の人は関与するのか?」「研究プロジェクトは、生物戦の防衛にどのように関連しているのか?」「機密研究はないのか?」
本書の話題は多岐に渡るが、それぞれの要素をつなぎ合わせているのは、著者の取材力と言えるだろう。あらゆる対象者に「何が目的なのか」「なぜそれをやりたいのか」といった研究の原動力となるものを何度も問いかけ、答えを引き出していく。それが合成生物学に関わる人たちのキャラクター相関図のように提示され、この先のストーリーが読み手自身の頭の中で勝手に動き出していくような印象を受けた。
人間の理性が科学を生み出し、その科学が技術やテクノロジーを生み出すーーそんな時代もあったのかもしれない。しかし今、合成生物学の領域においては、テクノロジーが欲望を生み出し、その欲望が科学を生み出しているのだ。我々の運命やいかに。
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