世界レベルになった「日本のパン」最前線

老舗の名物から最新ベーカリーの作品まで

ドイツパンのはじまりも港区に関係している。本格的なドイツパンは、1924(大正13)年、神戸「フロインドリーブ」の開店にはじまる。第一次世界大戦で日本軍の捕虜になった、ハインリヒ・フロインドリーブがドイツの伝統を日本に持ち込んだものだ。

左から、軽いグラハム、グラハム、ポンパニッケル(写真:東京フロインドリーブ)

そこで修業した福井貞夫氏が、1970(昭和45)年広尾に開いた「東京フロインドリーブ」。そこは、絵本に出てくるヨーロッパのパン屋に迷い込んだよう。コッペみたいな形のちぎりパン・アインバック、編み込みパン・ツォップ――。

フロインドリーブ本店から受け継いだサワー種(ドイツパンのもとになるもの)は創業以来48年継がれ、ライ麦パンに使用される。たとえば、真っ黒なパン・ポンパニッケル。レンガ窯で3時間も焼かれたそのパンは、まるでキャラメルやリキュールのように甘い。

世界レベルになった日本のパン

先駆者たちの努力によって、日本のパンのレベルは、ヨーロッパに肩を並べた。メルクマールのひとつは、2004年開店の「ラ ブティック ドゥ ジョエル・ロブション」。恵比寿ガーデンプレイス内に作られた、壮麗なシャトーレストランの地階にオープン。うつくしいハードパンやデニッシュがずらっと並んだ光景にわくわくが止まらなかった。2003年には「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」に併設して六本木ヒルズに開業、話題をさらった。

フレンチのメソッドと日本が培ってきたパン技術の最良の部分が融合している。プチバケットロブションは、レストランでも供される、ジョエル・ロブションオリジナルの食事パン。ボルドーの赤や濃度の高い料理にも負けない重厚さと味わい深さがある。ホップスは、伝統的なホップ種の技術で作られる食パン。ホップのフローラルな香りがうつくしい。ロブションのカレーパンは、レストラン監修のカレーフィリングが楽しめる。

ロブションのカレーパン(写真:ラ ブティック ドゥ ジョエル・ロブション 六本木ヒルズ店)

表参道や西麻布にはカフェ文化が花開いた。中でも思い出深いのは、かって竹下通り入口のパレフランスにあった「オーバカナル」。テラス席にフランス人たちが陣取り、「アン・カフェ・シルヴプレ!」の声が飛び交っていたのを覚えている。

バゲットやデニッシュなど、パンにもフランスのエスプリがあふれる。いまもオーバカナルはアークヒルズで営業、「東京の中のパリ」であることに変わりない。

大通りから路地へと、カフェ文化は移っていった感がある。たとえば「西麻布喫茶R」。青山界隈の趣味のいい人たちが集まる社交場に混ぜてもらう、といった感じの雰囲気が私は好きだ。手仕事の作家の作品を展覧会で紹介していて美的な刺激を受けるし、うるし漫画家・堀道広氏の金継ぎ教室も開かれる。

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