世界レベルになった「日本のパン」最前線

老舗の名物から最新ベーカリーの作品まで

この店の名物がホットドッグ。店主の滝本玲子さんが「野球場で昔食べたホットドッグ」をモデルに作る。使用するのは、下北沢の名店「KAISO」のドッグパン。かりかりパンから小麦と発酵バターの甘さがあふれる。オーソドックスなソーセージとケチャップの組み合わせながら、硬めの重いパンという組み合わせが新しい。

根津美術館近くの路地に潜む「buik」には、日常で疲れた心をよく癒されている。モーニングはペリカンの食パンを使ったバタートースト。無塩バターの塊がとろけているところに、別添えの塩をかける。ランチは豆のスープ。豆のやさしい滋味と、かけまわされたバジルソースの鮮烈さのコントラスト。添えられるのは、お母さんが作るようなもっちりした丸パン。素朴だけれど、どんなパン職人が作るよりも、この料理に合っている。

真っ白な打ちっぱなしの壁に囲まれた空間でひとり過ごしたあとは、再起動をかけたみたいに心がさっぱりして、青山の街もよりうつくしく見える。スコーンやキャロットケーキなどおいしい焼き菓子をおみやげにすれば、たったひとりで憩いのときを過ごしたあとの家族への罪悪感も軽くなる。

アートと融合する未来形ベーカリー

パンの未来も、港区は知っている。未来系のパンの先駆けといえば、1990年代に青山に登場した「デュヌラルテ」。発酵の香りを削いだクリーンな風味、抽象的な形、アートギャラリーのような店舗がシーンに衝撃を与えた。いまも、表参道GYREの地下に健在だ。

アメリ(写真:COURTESY)

昨年、未来系のパン屋がもう一軒出現した。赤坂インターシティエアの「COURTESY」。レディー・ガガのヒールレースシューズを制作した舘鼻則孝氏がプロデュース。インテリアの監修にはじまり、店内に置かれる彫刻も氏の作品。

パンとアートが融合している。フォカッチャ風の生地を、ドーナッツのように型抜きして作ったフォカナッツは、パンとは思えない建築的な形。フォカッチャにおけるオリーブオイルをラードに変え、上にのせられるべき具材を中に練りこんで、3色の色彩に染め上げる。ラルドンにも似たコクにあふれる獣の香りに、野菜やチーズが響き合う。

花畑のようなパン「アメリ」は、映画『アメリ』にインスパイアされたもの。クランベリーのデニッシュ「パピヨン」は蝶が羽ばたく一瞬をイメージ。

青柳吉紀チーフベーカーの中に眠っていたクリエイティビティを、舘鼻氏の一言が揺り起こした。「青柳さんもアーティストですよね」。常識をとっぱらい、このモダンな空間に合うアーティなパン作りに没頭したという。そんなコラボレーションからパンが生まれるのも、常に先端的なパンが生まれてきた、この街にふさわしい。

TEXT BY HIROAKI IKEDA

PHOTO BY TOMO ISHIWATARI

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