「競合他社への転職」で法的な問題とは何か 中途採用者は結果を出さないと解雇される?

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中途採用者は能力不足を理由に解雇できるのでしょうか。新卒の場合とは解雇の基準は違うのか? 上級経営コンサルタント、会計法人の税務アドバイザー、上級システムエンジニアなどの専門職や管理職や「営業部長」などの特定の職位としての中途採用といった、各種キャリアを見込まれての比較的高待遇での中途採用(以下、キャリア中途採用)の能力不足による解雇については、裁判では、それ以外の解雇、たとえば新卒採用者の能力不足による解雇と比べて、多少緩やかに、つまり会社側に有利に判断されているといえます。

中途採用の中でも特にキャリア中途採用の場合、基本的に会社はほかの職位への配置転換は予定していません。こういった実態を踏まえ、キャリア中途採用者の能力不足を理由とする解雇が争われる裁判では、「会社には、別の職種や下位の職位への配置転換などといった方法での解雇回避措置義務まではない」という判断がなされたり、能力の有無の判断についても、「中途採用時の地位・職位に通常要求される能力を有しているかを検討すれば足りる」という判断がなされたりする結果、中途採用時の地位・職位に通常要求される能力の不足を理由とする解雇が認められやすい傾向があります。

加えて、労働条件を記載した書面に、具体的な「中途採用後に達成すべき成績の数字」といった数値条件が書かれていると、それを達成できなかった場合に能力不足と判断されるリスクは高まります。

納得できない書類は受け取らない

キャリアを活かしての転職には、華々しい面だけでなく上記のようなシビアな面もあります。転職時には、過剰な数値条件が記載されていないか、労働条件を記載した書類の内容を詳しくチェックすることをお勧めします。転職交渉時の条件よりも過剰な数値条件が記載されているような場合は、当該条件が記載されている書類は受け取らず、交渉して自分で納得できる内容に変更してもらってから受け取るなりサインをしましょう。

最後に、基本中の基本。法律上、使用者(雇用主)は労働者に対して、賃金、労働時間そのほかの労働条件を明示しなければなりません。その明示のパターンとしては、使用者(雇用主)と労働者双方で結ぶ「雇用契約書」の場合、「労働条件通知書」という使用者(雇用主)からの通知書類の場合、両方の場合、が主なものです。「転職交渉時のときと話が違う」といったトラブルが起こらないよう、労働条件を明示した書類は必ず会社からもらうようにしましょう。

宮川 舞 銀座数寄屋通り法律事務所 弁護士

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みやがわ まい / Mai Miyagawa

東京弁護士会所属。会社間の紛争を中心に、訴訟を多く手掛ける。また、『名誉毀損の慰謝料算定』(学陽書房)の執筆陣に名を連ねるなど、名誉・信用・プライバシー・肖像・パブリシティの侵害に関わる研究や事案に造詣が深い。弁護士による誹謗中傷対策 弁護士宮川舞公式サイト

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