移民問題は2100年まで見据えて考えるべきだ

テセウスの船と「民族国家」という概念

米国は長年にわたって世界一の綿花生産国だったが、今でも綿花生産量は、中国、インドに次ぐ第三位だ(2016年)。かつては綿花の栽培・収穫には大量の労働力が必要だった。米国の綿花生産が拡大したことには南部の奴隷制度が大きな貢献をしており、アフリカからアメリカ大陸へと強制的に移住させられた人たちは、1000万人規模ともいわれる。

トランプ大統領はメキシコとの国境に壁を作って違法移民の流入を阻止すると主張して、国内では賛否が分かれて対立が続いている。メキシコからの労働力が大量に流入するきっかけとなったのは、第二次世界大戦中に労働力が不足したことのようだ。議会は1942年にブラセロプログラム(Bracero program)を認めて、メキシコ人労働者の一時的な流入を促進した。

第二次世界大戦の終了後も、テキサス州などでは綿花の摘み取り作業を行う安価で使いやすい労働力としてメキシコ人労働者の利用を必要としていたため、ブラセロプログラムは1964年まで延長されている。1960年代になるとテキサス州の綿花農場では機械化が進み、1970年代には季節労働者に対する需要は大きく低下していた。さらに除草剤や遺伝子組み換えによる種子の利用によって綿花栽培に必要な労働力は著しく減少しているという(注3)

統一前の西ドイツでは、労働力不足に対してトルコからの大量の労働量を受け入れたものの、経済が不振に陥るとさまざまな社会問題をひきおこしたことはよく知られている。労働力の不足という問題は経済の動向や、産業技術の発展次第でどのように変化していくか予測が難しい。

当面は労働力不足でも将来は余剰になる

今後AI(人工知能)の発展がどのような速度で進むのか予測することは困難だが、いずれは人間の仕事を奪ってしまい職の不足を招くのではないかと懸念されている。しばらくの間は、さらなる高齢化の進行が日本経済に深刻な労働力不足を引き起こすことは確実だが、その先はむしろ労働力人口の減少にもかかわらず、著しい労働力余剰が発生する可能性もあるだろう。

注3)Rivoli, Pietra. “The Travels of a T-Shirt in the Global Economy: An Economist Examines the Markets, Power, and Politics of World Trade :. New Preface and Epilogue with Updates on Economic Issues and Main Characters” , p.32, Wiley(2015), Kindle 版
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