日本ではグローバル化は、モノ、カネ、ヒトという順序で進んできた。貿易によるモノの国際取引が拡大し、おカネの国際移動も活発化したが、ヒトの国際移動はなかなか進んでいない。しかし、世界の歴史をみると、貿易によって商品が活発に国際移動をするはるか前から、人間の大規模な移動が起こっていた。むしろ大規模な人の移動が世界史を形づくってきたといっても過言ではないようだ。
「19世紀を通じて、グローバル化の唯一最大の推進力は、貿易や国際的な資本の流れではなかった。それは人だった。産業革命が起こる前は、こうした人々のほとんどは奴隷だった。1820年までの間に1130万人が新大陸に移動したが、そのうちの870万人は、強制的にアフリカ大陸から連れてこられた」(注1)
2010年の米センサス局調査では、アメリカ・インディアン(アラスカの先住民を含む)の子孫と認識している人は約600万人で、米国の全人口3億人余りのうちの約2%に過ぎない。外部から大量の人が流入したのは、南北アメリカ大陸だけでなく、オーストラリア大陸やニュージーランドにも大量の移住者が移り住み、オーストラリアのアボリジニやニュージーランドのマオリ族といった先住民族も少数民族となってしまっている。
逆に、大量の人が海外に移住して、もともと住んでいた地域よりも海外に多くの民族がいるようになった国もある。アイルランド共和国の人口は2016年時点では480万人、北アイルランドを含めても約650万人だが、19世紀半ばのジャガイモ飢饉の際には、100万人程度の餓死者が出て、100万~200万人が移住したという。アイルランド系の人口は、アメリカだけで約4000万人、そのほかの国々もあわせると8000万人ともいわれており、海外にいるアイルランド系の人口のほうがアイルランドに住んでいる人よりもはるかに多いといわれている。
労働力を移民に頼った後の問題
コロンブスが新大陸を発見したころ、人口は少なく土地は未活用の状態だった。人口密度の高いヨーロッパから大量の移民が新大陸に移動することは、世界の経済効率を大きく高めたはずである。ヨーロッパからの移民なしには、米国は現在のような経済大国にはなっていなかっただろう。米国という地域は移民のおかげで大発展し、この地域に住む人の所得水準は飛躍的に高まった。
しかし、「アメリカ・インディアン居留地の平均所得は米国全体の平均を68%下回る。年収5000ドル未満の世帯は全米では6%の世帯であるのに、居留地では20%の世帯だ。全米では15%である貧困水準を下回る人の割合も25%である」(注2)というように、先住民族の子孫の生活水準は米国内では相対的に非常に低い水準にあって、繁栄しているとはいいがたい。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら