「大豆農家」がトランプ政権の命運を左右する 米中貿易摩擦の最大焦点に大豆が浮上

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仮に同大学の試算通りだと、100億ドル近い中国向け大豆輸出が吹き飛ぶことになる。現状では米国が輸出する大豆の3分の2が中国に向かう。市況に敏感な国際商品として、価格競争力が低下すれば市場を失うことは当然だ。実際に関税が上乗せされたら、シカゴ大豆相場の大幅な下落は避けられないだろう。

農産物貿易に詳しい日本人研究者によると「ブラジルなど南米に米国産大豆の減少を補えるだけの輸出余力はない。実際に米国からの輸出がどれだけ減るかは分からない」という。しかし、関税引き上げが米中の大豆貿易に大きな混乱をもたらすことは間違いない。

最大の被害者は米国の大豆農家

一方で、中国側の被る打撃はどうか。農業に詳しいオランダの銀行ラボバンクは「大豆の25%関税引き上げで、中国内の豚肉コストは2.3%、鶏肉で3.8%上昇する」との予測を明らかにしている。コスト上昇分は、短期的には小売価格に転嫁され、中国の消費者に痛みを強いる。しかし、「長期的には代替原料を使うことで、米国産大豆減少に伴う畜産への影響を軽減できる」と分析している。

大豆貿易をめぐる米中のガチンコ勝負は、どうやら米国側に旗色が悪いように見える。その最大の被害者は大豆農家になりそうだ。

米中西部の農業地帯は2016年の大統領選挙で、トランプ氏の勝利に大きく貢献した。今でも両者の関係は悪くない。2月にアーカンソー州とテキサス州の農業地帯を回り、農家の話を聞いた。多くが選挙でトランプ氏に投票し、現在も同政権の減税や規制緩和を高く評価していた。

テキサス州フォートワース近郊の肉牛農家ケビン・ムーアさんは「農場で実際に汗を流すわれわれのために、彼は期待以上に働いてくれた」と真剣な表情で話してくれた。

農政に詳しいテキサスA&M大学のデイビッド・アンダーソン教授は「農家はトランプ氏が通商問題でさまざまな発言をするが、(最終的には)乱暴なことをしないと期待している。現時点で彼らの信頼感は強い」と分析する。

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