米中関係はすでに大きな転機を迎えている トランプの対中貿易戦争には理由がある

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トランプの対中貿易戦争は単なる思いつきではない(写真:REUTERS/Carlos Barria)

米中両国が相手側の輸出品への関税引き上げで激しいぶつかり合いを演じている。米国が次々と打ち出す関税引き上げに中国が同じ規模の対抗策を取れば、中国は米国からの輸入品のすべてに高関税をかけざるをえないような勢いだ。

もちろん両国のこうした強気の姿勢は、約2カ月後に米国が制裁対象品目を正式に決定することを念頭に置いた駆け引きの面が強い。したがって多くの関係者が、米中両国間で水面下の交渉が行われ、現実的な落としどころを見いだすであろうとみている。むろんトランプ大統領は何をしでかすかわからないという不安の声も根強いが、世界経済を根底からひっくり返すようなことはしないであろう。そう信じたいところだ。

米国の対中政策は「関与」から「封じ込め」へ

ただし、昨年来の経緯を分析すると、米中関係が大きな転機を迎えたことは間違いない。それは中国を何とかして米国中心の世界の経済システムに取り込もうという、オバマ前大統領までの歴代米国政権が続けてきた「関与政策」(engagement policy)から、もはや中国は自分たちに協調してこないから力ずくで抑え込もうという一種の「封じ込め政策」(containment policy)への転換だ。

そうなると米中のみならず、両国の同盟国も巻き込んだ世界的な対立構造ができかねない。今回の米中貿易摩擦の展開は冷戦時代を彷彿させる状況への突入を予感させるような出来事である。

今回の高関税をめぐる「報復合戦」は急に始まったことではない。2016年の米大統領選挙中から、トランプ氏は中国との膨大な貿易不均衡を問題にしており、中国を「貿易で優位に立つため為替を操作している」と批判し、自分が大統領に当選すれば中国を為替操作国に認定すると公約していた(実際には認定しなかった)。さらに、当選後は米中間の貿易不均衡を理由に、米国がこれまで維持してきた「一つの中国」という政策について「なぜ堅持する必要があるのかわからない」と中国を挑発する発言をした(これも後に事実上撤回した)。

こうした言動はトランプ大統領が得意とする、最初に威嚇的発言で相手を脅し、その後の交渉で譲歩を引き出そうという交渉スタイルだったのかもしれない。実際、2017年4月の首脳会談では、習近平国家主席が貿易不均衡について「米中包括経済対話メカニズム」を立ち上げることで合意するとともに米国の対中輸出を増やすための「100日行動計画」を策定することを約束した。中国側が一方的に米国に譲歩したかのような結果だった。

ところが同年7月に行われた第1回の「包括経済対話」は決裂し、共同声明はもちろん、出席者の記者会見もできないまま終わった。そして、1年経ってみると、米国の対中貿易赤字は減るどころか逆に増えてしまった。首脳会談の合意を受けた米中間の協議は何ら成果を生み出さないまま時間だけが過ぎているのだ。「米国は完全に中国にだまされたと思っている」というのが日本外務省の見立てである。

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