ヒラリー・クリントンが国務長官だった時代に、政策企画本部長を務めたプリンストン大学教授のアン=マリー・スローター教授(国際法学・国際政治学)は次のように述べています。
「どんなに整理上手な人でも、どれほどマルチタスクの達人でも、限界はある。何かが起きると、慎重に計画していた生活のバランスが突然崩れてしまうのだ」(『仕事と家庭は両立できない? 「女性が輝く社会」のウソとホント』)。仕事を重視するのならば、家庭のことには十分に手が回りませんし、逆に、家庭を重視するならば、仕事には十分に手が回らなくなるのが普通です。
こうした中で、脇役太郎さんは、「家庭・子育てでも主役になりたくて、子育てに理解のある会社に転職し、育休もとり、短時間勤務制度も利用して働いて」いるのですから、職場で主役を目指すのを犠牲にしてでも、家庭で主役になることを選んだ貴重な存在であると言えるでしょう。
子育てに理解のある会社とはいえ、こうした選択が簡単だったとは思えません。せっかく子育てで主役になろうと意気込んでいたのに、奥様から「あなたが育休を取ったのは、子育てのためじゃないでしょ。私を支えるためでしょ。もっと私を支えてよ」と言われてしまったのは、確かにショックだと思います。
また、家事・育児の負担が女性に大きく偏る日本の現状では、その悲しさに同感してくれる男性がほぼいないため、孤独を感じるのも当然です。ただ、脇役太郎さんの主張には少し疑問もあります。
産褥期に家事も育児も女性が担うことの恐ろしさ
個人的な話をさせていただくと、僕は2016年の1月に子どもが生まれたときに、大学の春休みを利用し、2カ月間はほとんど仕事を入れず、家事・育児に注力しました。
出産後6~8週間は体を休めることに専念する産褥期に当たります。もちろん、個人差は大きいと思いますが、少なくともわが家のケースでは、妻の体調はすぐれず、僕が家事に専念しなければ家庭が成り立たない状況でした。家事を合理化するため、紙皿や紙コップを利用するなど、手を尽くしました。
この経験を通じて痛感したのは、97%もの男性が育休を取得せず、産褥期の女性が家事も育児も担っているケースの恐ろしさです。多くのご家庭では、この期間を里帰り出産や親のサポートによって乗り越えているため、あまり理解されていないのかもしれません。いずれにしても、男性が育休を取得しない社会は、女性の我慢と無理を前提に回っているといえます。ですから、とりわけ周囲のサポートが期待できない場合は、男性は育休をとるべきですし、期間は、最低でも1カ月、できれば2カ月は欲しいところです。
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