ザッカーバーグ「完璧すぎる謝罪」の舞台裏 日米企業トップの「コミュ力格差」は絶望的だ

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テクノロジーを知らない素人に対して、わかりやすい言葉で説明することが苦手と言われるシリコンバレー界隈の若手経営者だが、ザッカーバーグ氏は、いらだつこともなく、忍耐強く、敬意を持って、わかりやすい言葉での丁寧な説明に終始した。

この公聴会のシステムとして、一人5分の持ち時間で、次々と質問者が変わっていくものだったために、一人の質問者がどんどんと掘り下げていって追い詰めるという形にはならなかったこともザッカーバーグ氏には幸いした。結果的に、議員側のテクノロジーに対する知識の浅さが露呈する格好となった。

ザッカーバーグ氏といえば、お決まりのTシャツやパーカがトレードマークだ。Tシャツといっても、Brunello Cucinelliというイタリアンブランドで1枚295ドルもする代物らしいが、今回はそういったカジュアルな服を封印し、濃紺のスーツとフェイスブックカラーの青いネクタイで清潔感や礼儀を示した。

大量の汗をかいてパーカを脱ぐザッカーバーグ氏(写真:WSJサイトより)

実は、ザッカーバーグ氏は8年前、WSJ主催のあるコンファレンスで、想定していなかった質問を受けて、大量の汗をかき、聴衆の面前で、パーカを脱ぐという恥ずかしい経験をしている。このときの動画(問題のシーンは14分50秒のところから)を見ると、ザッカーバーグ氏はものすごい早口で、口ごもりがち。声も高く、いかにも西海岸のテックベンチャーの兄ちゃんといった語り口で、今回の公聴会における落ち着きとはまさに天と地の差だ。

あらゆる角度からの質問を想定

この証言に向けて、ザッカーバーグ氏とその周囲の側近たちは膨大な時間を費やし、準備を進めたといわれている。社内スタッフと危機コミュニケーションの専門会社、弁護士、ブッシュ元大統領の側近なども含めて約500人で対応チームを結成し、緻密な戦略を練った。その過程で、ザッカーバーグ氏も何度も想定質問に対する回答の練習を重ねたのだろう。成果は、如実に表れていた。

企業の危機管理コミュニケーションのコンサルティングに携わる筆者にとって、興味深かったのは、フェイスブックが用意した想定問答集の中身だった。油断をしていたのだろうか、ザッカーバーグ氏が机に置いたまま休憩に入ってしまったため、カメラマンによってその内容が写真に収められてしまったのだ。

「責任をとって辞任するのか」「アップルがフェイスブックを批判していることについて」など想定される質問とその答え方が箇条書きでリスト化されたもので、まさに「千本ノック」に耐えられるように、あらゆる角度からの質問を想定し、準備していたことが浮かび上がった。

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