「日本郵政の手当廃止」が示す"正社員"の未来

「同一労働同一賃金」で既得権にメスが入った

今回日本郵政が廃止することにした正社員の住居手当は、最大で1月あたり2万7000円の支給だそうです。日本郵政の場合、非正規社員数は19万7000人と言われますので、単純計算で19万7000人×2万7000円=53億1900万円という莫大な金額を「毎月」支払わなければなりません。ボーナスなどではないので、「利益が上がったら」ということもできません。「毎月」約53億円、年間636億円なのです。

処遇を改善せよ、と言うのは簡単だが…

非正規雇用の処遇を改善せよ、と言うのは簡単です。しかし、その分何かを諦めなければならないということも忘れてはなりません。つまり、将来への投資や、グローバル展開のための費用や、今後の成長の柱を探すための新規事業への投資、これらを諦めて「手当」を支払うことは是か非か、という話なのです。新規事業が育たなければ、割りを食うのは結局「これから」働く人。つまり若い世代です。若い世代にとって本当にいいのはどちらでしょうか。

こういう話をすると、「企業は内部留保を溜め込んでいるからそれで払えばいいではないか」という意見をよく目にします。しかし、年間600億円の投資ができれば今後の成長の柱となる新規事業を育てられるかもしれませんが、内部留保を取り崩してしまえば、先に述べた将来の投資ができません。また、取り崩して余裕があるのは一時的な話です。この手当改善は10年間で6000億円もの投資が必要な案件と同価値ということにあります。正社員に手当を出すことで、それほどの効果があるのなら良いのですが現実はどうでしょうか。

当然ですが、法律に従わなくていいとか判決を無視していいとか言うつもりは毛頭ありません。しかし、「法律の趣旨がこうだから」、「判決がこうだから」、処遇を改善しなさいと言うだけなら簡単です。突然、企業の「財布」が増えるわけではありません。日本郵政の最大労組(組合員24万人)が手当削減提案に同意したというのは、会社の将来を見据えた深い洞察があってのことでしょう。単に「会社のいいなりになってけしからん」という話ではないはずです。

もちろん、非正規の処遇改善は行うべきです。しかし、正社員をはじめとする全体の制度設計を考えない小手先の対応では、結局どこかに「しわ寄せ」が行くだけなのです。自分の会社の下請けや子会社に「しわ寄せ」が行く場合もあるでしょう。たとえ正社員だからといって、自分さえ逃げ切れれば良いという話ではないはずです。非正規社員と正社員の格差の「根源」である、身分保障や労働条件変更の考え方を含めたこれからの雇用社会のグランドデザインを再検討して、初めて本当の意味での格差是正が議論できると筆者は考えています。

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