「待機児童ゼロ」は、どうして難攻不落なのか 保育園「安すぎる認可保育料」という根本問題

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鈴木氏はこの3月まで東京都の特別顧問として待機児童問題に取り組んできた。社会保障や社会福祉が専門で、大阪市で「あいりん地区」の改革に取り組んだ経験を持つ鈴木氏にスペシャリストとして白羽の矢が立ったのだ。小池都政については評価が分かれるところもあるだろうが、少なくとも待機児童問題に関しては成果をあげていると言っていい。

本書にはその改革の裏側で何が起きていたかが詳しく記されていて、こちらも読みどころのひとつになっている。特に行政と問題解決に取り組む際のコツが書かれているところは、これから行政に働きかけて何かを変えたいと考えている人々の参考になるだろう。

生産緑地の活用によってできること

本書では実践的なアイデアも多数示されている。ひとつだけ紹介しよう。たとえば生産緑地の活用だ。現行の生産緑地法の制度がはじまった1992年に生産緑地の指定を受けた農地は、30年後の2022年に制度の期限を迎えるという。生産緑地指定が解除されると税制面などでの優遇措置がなくなるため、地主たちが一斉に土地を売りに出す事が予想される。これを「生産緑地の2022年問題」と呼ぶそうだ(不勉強で知らなかった)。

そこで、保育園に土地を貸し、生産緑地内に建てることを条件に、さらに30年の優遇措置を認めるというのが著者のアイデアである。そういえば日本でいちばん待機児童数が多い世田谷区は、生産緑地も多い。畑の中にある保育園。なんだか素敵ではないか。

大切なのは、子育てをしている人たちにとって多くの選択肢があることだ。そしてそのための環境をどう整備していくかである。

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本書の冒頭、待機児童を抱えて追い詰められた鈴木夫妻が、一時保育やベビーホテルを検討する場面が出てくる。あまり環境が良いとはいえないある施設を見学した後、鈴木氏が「預けてみようか?」と言うと、奥さんが目に涙をいっぱいためて「絶対にイヤ!」と訴える。この場面には胸を衝かれた。どちらの気持ちも痛いほどわかるからだ。鈴木夫妻と同じように、幼い我が子を抱え、切羽詰まった状況に置かれている人が、いまこの時もたくさんいるはずだ。

だがどうかみんな顔をあげてほしい。本書に明らかなように、この問題を解決するための処方箋はもうわかっている。いまや問われるべきは「何を行えばいいか」ではなく、「どう実行すべきか」なのだ。誰もが笑って子育てを振り返ることができる日がそう遠くない未来に来ることを願って。あきらめてはいけない。打つ手はまだ、残されている。

首藤 淳哉 HONZ
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