「待機児童ゼロ」は、どうして難攻不落なのか 保育園「安すぎる認可保育料」という根本問題
待機児童はなぜ生まれるか。厚生労働省のまとめによれば、待機児童の数は、2017年4月1日時点で、全国に2万6081人。そのほとんどは0歳児から2歳児で、首都圏に集中している。ただ、行政が統計上、把握している「待機児童数」は、実は限定的な概念で(たとえば入園をあきらめ、親が仕事を辞めて家で子どもの面倒をみているケースなどは含まれない)、実際はもっと数が多いと言われている。
だが不思議なことに、こと保育に関しては、需要が増加しても、簡単に保育園が増えるとはならない。その要因として、これまで保育士の不足や女性の社会進出、都市部への人口集中などがあげられてきたが、鈴木氏は本書でひとつずつ反証をあげてこれらを論破していく。そして需要と供給のメカニズムが機能しない現行の保育制度こそが、待機児童問題の根本的な原因であると看破するのである。
市場メカニズムが機能しない「児童福祉」
「児童福祉」という言葉があるように、日本の保育制度は長い間、社会福祉の中に位置づけられてきた。そのため市場メカニズムが機能しないようになっているのだ。一例をあげると、保育の大部分を占める認可保育において、保育園の経営者は、保育料を自由に決めることができない。その権限が与えられていないのである。
「認可保育料が安いのはそのおかげじゃないか!」という反論が聞こえてきそうだ。これに対し鈴木氏は、むしろその認可保育料が安すぎることこそが問題なのだと指摘する。市場メカニズムではなく、政治や行政が価格を決めるとどうなるか。「保育料を政治的に安くしすぎてしまう」という事態が生じてしまうのである。
認可保育は世帯の所得水準によって保育料が変わるが、平均的な保育料(月額)は2万円強。これに対して、たとえば無認可保育園である東京都認証保育所の平均保育料は6.5万円である。安い認可保育所に申し込みが殺到する理由がここにある。
ところが、「安くていいよね」の認可保育には、実は多額の公費が注ぎ込まれているのだ。鈴木氏はこれを社会主義国になぞらえる。一般企業のように必死の経営努力を行う必要がなくなってしまえば、旧社会主義国の国営企業のように、高コスト体質に陥る。税金投入額をお上が決めるとなれば、経営努力よりも、予算獲得のための政治活動が重視されるようになってしまう。
そしていったん手にした特権は誰もが手放したくない。既得権構造はこうして生まれるのだ。本書は現行の保育制度が抱える問題点がわかりやすくまとめられていて、これから「保活」を始めるという人にも、有益な情報をもたらしてくれるだろう。
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