相談所の紹介を受けたはいいが、なかなか行動に移せないでいた高野さん。ずっと「自分が不出来だから悪い」と思っていたため、自分の受けているそれが、モラハラやDVに当たるとは信じがたかった。しかし、思い切って足を運んでみたら、「夫婦は平等」「どんな人にも生きる権利がある」と相談員に言われ、ハッとする。
「いつも『私なんかが……』と思っていたので、『こんな私でも、文句を言われなくていいんだ』と気づかせてもらえて。今まで客観的に考えられていなかったので、冷静になれて、何だか安堵できたのを覚えています」
家を出るきっかけとなったのが、その数日後の出来事だ。
「子どもと夫と3人で電車に乗ったとき、子どもがよろけて手すりに頭をぶつけ、大泣きしまったんです。家に帰って、どちらが悪いかという話になりました」
子どものことなので、珍しく自分の意見を主張したという高野さん。
「どちらが悪いというよりも本当に2人の注意不足だったので、『お互いに気がつかなかったのがいけないから、今度からお互いに注意していきましょう』と主張してみたんです。そしたら、『お互い』というのが気に入らなかったようで。殴られて、首を絞められました」
その晩、ネットで家を出る方法を検索。ネットには警察に行きなさい、と書いてあったので、次の日警察へ行くことにした。
「夫が数時間出かける予定があったので、そこを狙いました。私みたいな一主婦の話など聞いてもらえないと思っていましたが、もう気持ち的に後がなかったんです。取り合ってもらえなかったら、最悪自殺するしかないと思いました」
行ってみると警察は、「それは暴力で、下手したら犯罪ですね」と親身に話を聞いてくれた。高野さんが「家を出たいのですが、家を出る場所はありますか」と相談すると、「それは可能だけど、だったら今すぐ支度をしなければならない」との答えが返ってきた。
幸い、家の貴重品はまとめてあった。そこで婦人警官と一緒に家に戻り、夫が家に本当にいないかを確認してもらう。貴重品を持ち、さっと整理して家を出るまで、タイムリミットは30分。そして、もう二度と戻らない覚悟で、子どもと2人、自宅を後にした。
自分を救ってくれた「シェルター」生活
「警察の方に『安全な場所に行くからね』とだけ告げられ、住所も何も伝えられず、車に乗り込みました。夜だったので、道もまったくわからなかったです。着いたところは、何かの施設の中の一室という感じの場所。私の前にも人はいたみたいですが、ここでは同じように保護された人には会いませんでしたね」
8畳くらいの畳の部屋、机、シャワールーム。殺伐とした何もない部屋で戸惑った。食事は部屋食で、温かな給食のような感じ。主菜がトンカツだったら付け合わせに小鉢がついて、ご飯とみそ汁。栄養のバランスが取れているような献立だった。
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