中国・大連市で、手術台に上った患者が医師にQRコードを示され、検査で新たに見つかった腫瘍の追加の処置費用をスマートフォンで支払うよう求められた――。今年初め、そんな信じられない出来事が報じられた。中国では手術費用は事前精算が一般的なので違法ではないようだが、モバイル決済の普及ぶりにあらためて驚かされる。
中国は特にリテール分野において世界屈指のフィンテック大国である。2017年のモバイル決済額は、日本の電子決済額全体 の60倍に当たる203兆元(約3450兆円)。断トツの世界一だ。中国人の84%は現金を持たずに外出することに抵抗がないというデータもある。筆者が北京で、割り勘のランチ代を紙幣で手渡したところ、その男性は財布を持っていないとのことで、紙幣をそのままポケットに押し込んでいた。
これらのモバイル決済を支配しているのがアリババとテンセントの2強だ。それぞれの決済業務部門・アリペイとウィーチャットペイで、中国のモバイル決済市場の9割以上のシェアを占める。
しかし、この4月から、そんなアリババとテンセントの金融王国が大きな転機を迎えようとしている。
中国はスマホ依存度高く、クレジットは劣勢に
中国のキャッシュレス化の背景として、紙幣の信頼性が低いことが指摘される。だが、もう1つ重要な要素はスマホ依存度の高さだ。中国のインターネット人口は全人口の過半数の7.3億人に上る。スマホを見る時間は1日3時間ともいわれ、世界トップクラスだ。昨年は、広東省で24時間スマホを見続けた女性が片目を失明したという事件も報道された。
最近では高齢者にもスマホがじりじりと普及している。65歳以上のスマホ利用者比率は、2014年の8%から20年には25%へと上昇すると予想されている。現地では高齢者が「スマホ中毒の孫と会話するため」や「お年玉を支払うため」にスマホの操作を覚えた、という話を耳にする。
これらの結果、中国の決済は、モバイルに大きくシフトした。特に少額決済のファストフードでは74%、コンビニでは68%がモバイル決済だ。それらより決済額が大きいレストランでも64%、ブランドショップですら57%がモバイルで決済されている。
現金払いは少数派になっており、100元札(約1700円)を出すとレジの紙幣真贋鑑別機にかけられる。
一方、クレジットカードは劣勢だ。2017年の決済利用額は、モバイル決済が前年比で28.8%伸びたのに対し、クレジットカードは2.7%の伸びにとどまった。中国では、日系のコンビニですら、国際ブランドのクレジットカードを受け付けない。
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