こうした犯罪の増加や、私企業が押さえる個人間決済データの膨張という問題を受け、中国の中央政府は規制強化に動いている。
まず、この4月から、不正利用被害を理由に、モバイル決済の利用額に上限が設けられる。店に貼り付けてある「静的」QRコードについては、1日当たり利用限度額が、ユーザーの本人認証のレベルに応じて500元(約8500円)から5000元(約8万5000円)に制限される 。
なお、自分のスマホに表示される「動的」QRコードは、1分ごとに更新されることから犯罪につながりにくいため、今回の上限規制の対象外となっている。
同じく4月から、中央政府は、アリババ、テンセント等の資金決済企業が顧客から預かった資金に対する準備率を20%から50%に引き上げる。最終的には100%まで引き上げるとされる。これらの準備金については、中国人民銀行などに無利息で預けることとされている 。
2017年6月末時点で、MMF(マネーマーケット・ファンド)で運用されているアリペイ経由の顧客預かり資産残高は1.4兆元(約24兆円)。 世界最大のMMF資金の出し手である。こうした顧客預かり資産の半額を無利息で運用しなければならないという規制は、顧客にとっても、運営企業にとっても大きな痛手である。
また、今年6月末からは、すべての資金決済について、中国人民銀行などの政府当局が民間と共同で新たに設立する 「網聯(ワンリェン)」という機関を経由するよう義務づけられる 。これにより、アリペイやウィーチャットペイ上での割り勘払いからお年玉の支払いまで、すべての個人間決済が、事実上、政府に筒抜けになる。
このように国内の規制が厳しくなると、アリババやテンセントは、海外事業の拡大を狙いたいところだ。しかし、中国政府への情報開示が進めば海外では警戒される。実際、アリペイは今月、従来検討していた日本進出を延期すると報じられている。情報流出を恐れた邦銀の協力を得られなかったとのことだ。
周回遅れの日本、中国の教訓をどう生かす?
一方、日本はどうか。現金の信用力が高いので、このままで不便はないという考え方もある。しかし、今の現金インフラには、レジの人件費、現金回収費、ATM運営費用などで年間1兆円以上のコストがかかっているという。やはり非効率だ 。
さらに今後、金利が上昇すると、ATMなどに眠る現金が運用できないことに伴う逸失利益が発生する。電子決済はこうしたコストを大幅に低減し、決済の速度を高め、地方と都市部の格差も是正しうる。
先月、遅ればせながら、メガバンクがQRコード決済の規格を統一することで合意した。QRコードの課題や情報管理の問題が中国で明らかになった今、出遅れたことを逆手に取って、より安全で利便性の高い電子決済インフラの早期実現を目指してほしいものだ。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら