モバイル決済拡大のもう1つの原動力がeコマースである。
中国のeコマース市場は、日本の6倍を超える。中国最大のeコマースサイト「タオバオ(淘宝)」を運営するアリババは、村の1割以上の世帯がネット通販を営むなどの条件を満たした村を「タオバオ村」と認定している。2017年末時点で、中国には2360カ所のこうした町や村が存在する。これらの町村の売り上げは年々増加しており、たとえば、昨年の11月11日の「独身の日」の流通総額は前年の8倍にも拡大した。
小さな店舗にとって、QRコードは極めて使い勝手がよい。購入者が店舗のコードを読み取るパターンだと、QRコードを印刷した紙を店舗に掲げるだけで済む。初期投資はほぼゼロで、決済手数料もかからない。店舗側が購入者のコードをスキャンする場合、読み取り機の設置が必要になるし手数料もかかるが、それでもクレジットカードよりかなり安価で済む。モバイル決済がeコマースの発展を促し、eコマースの拡大がモバイル決済をさらに活発化させるという好循環が生まれている。
ところが、最近になってこうした急拡大に「待った」をかける動きが出てきた。
きっかけになったのは、QRコード詐欺の急増である。ロイターの報道によれば広東省だけで昨年9月時点の被害総額は55億円に上ったという。また、2017年上期の調査で、モバイル端末ユーザーのうち1億人以上がウィルスに感染したことがあり、その2割がQRコード経由だと報告された。
詐欺の手口は極めてローテクだ。店舗などのQRコードの上に不正なコードを書いたシールを貼り付けるだけである。これをスキャンした利用者がスマホ画面に現れる「送金」にタッチした瞬間に、犯罪者への送金が完了してしまう。最近では、貼られているQRコードを読み込むと、スマホに入っている情報がすべて抜き取られるという犯罪も出始めた。
ほぼすべての情報はアリババ、テンセントに集中
また、私企業の情報独占も当局に目をつけられた。モバイル決済の件数は、年間376億件と、前年比46.1%増となっている(2017年) 。これらの情報をアリババとテンセントの2社がほぼすべて掌握しているほか、テンセントは、1日当たり380億件のウィーチャット経由メッセージ情報を取得している。
現在は、銀行からいったん民間業者のウォレットに移されたおカネについては、中央銀行などがその後の受送金データを直接見ることはできない。アリババ、テンセントとも政府と協力しているとしているが、犯罪捜査などが主体のようだ。
これだけの個人の決済や行動のデータを2社の民間会社がほぼ独占しており、かつそのデータ量が日々増大しているという事実は、中国当局にとって大きな脅威だろう。マネーロンダリング、脱税、犯罪などの温床になるという懸念もある。
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