呉の名物「海自カレー」は、なぜ成功したのか 海上自衛隊調理員が店舗に直接作り方を伝授
事業の準備は参加者を集め、ワークショップ形式で商標名を決めるところから始まった。濱田さんは当初、「呉海上自衛隊カレー」にしようと思っていたが、呉では海上自衛隊のことを親しみを込めて“海自”と呼ぶことから、参加者の意見で「呉海自カレー」が正式名称になった。そのほか、PRの仕方なども参加者で話し合って決めた。
その後、各艦艇・部隊から提供されたレシピを見て、参加者は自分の店で出したいカレーを第1希望から第3希望まで選んで決めるという、レシピと店の“マッチング”を行った。こうして、どの店でどのカレーを出すかが決まると、艦艇から店へ調理員が調理指導に赴いた。レシピを提供するのみならず、実地の調理指導まで行うことに、自衛隊の並々ならぬ思いが感じられる。そして、最後に司令や艦長が店で作られたカレーを食べ、「うちの部隊で出しているカレーとまったく同じだ」と判断して、ようやく“認定証”が授与され、カレーが提供できるというルールにした。
予想以上の人気で「大赤字」に
こうした呉海上自衛隊の全面協力のもと、2015年4月3日に、隊員のラッパ演奏とともに「出港用意」の号令によりスタートした海自カレーだが、濱田さんは当初「そこまでの人気にはならないだろう」と思っていたという。
呉の海自カレーを面白くしているものの1つに「シールラリー」というものがある。各店舗で海自カレーを食べると、店ごとに部隊のオリジナルロゴデザインのシールがもらえ、これを台紙に貼っていく。何枚か集めるごとに景品と交換でき、全店舗を制覇するとシリアルナンバー入りのレアな景品と交換できる。
スタート時、このシールは市が購入し、各店舗に500枚ずつ配布した。濱田さんは、500枚あれば1年間持つだろうと踏んでいた。ところが、ふたを開けてみると1カ月に500枚以上出ている店がほとんどで、500枚が1週間でなくなった店もあった。初年度ということもあり、市の事業としてきちんと予算を組んでなかったことから、追加のシールの購入は、店側にお願いすることになった。
また、初年度のコンプリート賞の景品は、実際に海上自衛隊の食事の盛りつけに使われているステンレス製のプレートを購入することにした。参加店舗の中には夜しか店を開けない居酒屋もあるので、コンプリートするのはハードルが高く、濱田さんは「年間で、30人くらいしか出ないだろう」と思い、高価な景品にしたのだ。ところが、実際には1年間で738人もコンプリートする人が現れ、結果的に大成功なのに大赤字の事業になってしまった。
そして、海自カレー人気を象徴する出来事は5月に起きた。実は、初年度の参加店舗22店舗のうち、4月のスタート時から海自カレーを提供していたのは21店舗だった。残りの1店舗は呉の地酒メーカーが広島駅の名店街に出店するアンテナショップで、1カ月遅れの5月中旬にオープンした。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら