呉の名物「海自カレー」は、なぜ成功したのか 海上自衛隊調理員が店舗に直接作り方を伝授
一方の海自カレーは、現在の呉基地に所属する海上自衛隊の各艦艇や呉教育隊などの陸上部隊で実際に食べられているカレーのレシピに基づき、海上自衛隊の調理員が呉市内の飲食店に直接作り方を伝授し、忠実に味を再現している。つまり、海軍カレーと海自カレーは名前こそ似ているものの、まったく別物なのだ。
なお、一口に海自カレーといっても、部隊ごとに独自のカレーのレシピを持っている。また、A店では「護衛艦うみぎり」のカレー、B店では「潜水艦けんりゅう」のカレーを提供するというように、店舗ごとに提供するカレーがダブらないシステムにしているため、さまざまなカレーが楽しめるのが海自カレーのミソになっているのだ。
実は、海上自衛隊で実際に食べられているカレーを食べられる機会は、呉で海自カレーが始まる前から存在していた。先駆けとなったのは長崎県佐世保市で2013年から毎年行われている「GC(護衛艦カレー)1グランプリ」だ。同イベントは海上自衛隊員が腕を振るい、護衛艦で食べられているカレーを作り、そのおいしさを競うというものだ。
同様のイベントは「護衛艦カレーナンバー1グランプリinよこすか」として、2014年に横須賀市でも行われたが、あまりにも混雑しすぎて入場制限がかかるほどの人気ぶりだった。
呉市と海自の初コラボ
こうした各地で開かれる海上自衛隊のカレーイベントの人気を受けて、2014年に呉市役所内でもカレーイベントをやろうという話が出た。しかし、たとえ1~2日であっても、イベントを開催するには多大な経費がかかるうえ、イベント当日だけお客さんが来ても、市の観光客の大きな増加にはつながらない。そこで、濱田さんは「いつ呉を訪れても、海上自衛隊のカレーが食べられるようにするには、どうしたらいいか」を考えた。
そこで思いついたのが、海上自衛隊のカレーのレシピを市内の店舗に伝授して、店で作ったカレーを提供するという方法だ。多くの店に参加してもらうことで、呉を訪れたお客さんにとっては食事をする店舗の選択肢が増え、店も儲かり、さらに、店で自衛隊のPR・応援をするというシステムにすれば自衛隊にとってもメリットがある。まさに一石三鳥のシステムだ。
濱田さんがこの話を海上自衛隊に持って行ったのが、2014年の8月頃だった。意外に感じるが、“自衛隊の街”であるにもかかわらず、それまで呉市と自衛隊が一緒になってイベントなどを行うことはほとんどなかったため、前例のないケースであり不安も大きかった。しかし、運良く当時の責任者である呉地方総監が、東京で広報に携わった経験を持つ人であり、「自衛隊はもっと地元に貢献すべき。地元と一緒になって地元のPRをするべきとおっしゃってくれた」(濱田さん)ことが大きく、プロジェクトは一気に動き出した。
11月には新聞や市のホームページなどで、海自カレーを提供してくれる店舗の募集を開始した。当初の予定では20店舗ほど募集するつもりだったが、実際に集まったのは13店舗だった。濱田さんは「最初は少なくても、少しずつ増やしていけばいいか」と思ったが、ここでも総監が、「13店舗じゃ少ない。試食会をやろう」と提案。参加しようか迷っている店舗を集め、4つの艦艇のカレーを提供して試食会を行うとともに、海上自衛隊のカレーに対するこだわりなどについて説明会を行ってくれた。結果、参加店舗は22店舗まで増えた。
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