呉の名物「海自カレー」は、なぜ成功したのか 海上自衛隊調理員が店舗に直接作り方を伝授

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海自カレーのスタートからまだ1カ月半しか経っていなかったにもかかわらず、この店のオープンの当日、すでに残りの21店舗を制覇した人々が開店前から列をなした。コンプリート賞の景品であるプレートには、シリアルナンバーが刻印されており、少しでも若い番号の景品を手に入れようと、平日にもかかわらず多くの人が押し寄せたのだ。

海自カレー「認定証」(筆者撮影)

この日は、初のコンプリート賞が出るということでマスコミも駆けつけた。また、景品の引き渡し場所が呉市内の「てつのくじら館」だったため、電車・車・バイクで来ていた人のうち、誰が一番早く広島から呉に戻り、1番のシリアルナンバーを手に入れたかといったことも話題になった。結果は、バイクの人が一番早かったという。

海自カレーのPRについて濱田さんは「とにかく、無事に事業をスタートすることに必死で、積極的なPRは打ててなかった」と話す。しかし、呉市と自衛隊の初のコラボということもあり、上述の試食会、認定式、出港セレモニー、そして初のコンプリート賞など、節目ごとに地元のテレビ等で取り上げられ、それが、面白いということで全国に流れたのが、大きなPRにつながった。初年度に全店舗コンプリートしたお客さんは、呉市外からの訪問が5割強、広島県外からの訪問が16パーセントにも上った。

厳格なルールを自ら定めた

海自カレーの認定には、実は厳格なルールがある。まず、レシピを提供する部隊の司令や艦長が交代するたびに、改めて認定をやり直す必要がある。加えて、レシピ提供元の部隊には、カレーが食べられるチケットを年間で10枚渡しており、事前通告なしの抜き打ち検査をするよう頼んでいる。この検査では、味が保たれているかはもちろん、接客についてもチェックされ、もし不合格になれば改善を求められ、改善できなければ海自カレーを提供できなくなってしまう。

呉市産業部観光振興課の濱田亜希子さん(本人提供)

こうした厳しいルールは濱田さんが決めたというが、当然、参加店舗側からは厳しすぎるという反発もあった。それでも濱田さんは「自衛隊の名前を使わせていただき商売をする以上、迷惑をかけるようなことがあってはならない」と譲らなかった。

一方で、海自カレーの値段は各店舗に任せ、付け合わせのサラダなどで値段を調整している。カレーの値段がほかのメニューとバランスを欠いて安くなり、カレーばかりが出て店の売り上げが落ちては困るからだ。こうした皆がなるべく損をしないよう最大限配慮することこそが、事業成功の秘訣ではなかろうか。

海自カレーの提供食数は、事業開始初年度の2015年度は11万1675食、2016年度は13万1786食、2017年度は10万7821食(2月末時点)と毎年10万食を越えている。さらに、店舗にレシピ・調理法を伝授する「呉方式」の海自カレーは、横須賀でも呉に遅れること半年ほどの2015年9月から始まり、青森県むつ市の大湊でも2017年6月から開始され、全国に広まりつつある。

濱田さん自身は、今年度から海自カレーの担当を外れているが、「長い間、観光の仕事に携わってきたが、市の職員もガイドブックを見ながらカレーを食べ歩いてくれているのを見たときは本当にうれしかった。やはり、地元の人が喜んでくれるイベントでないと、観光客の皆さんも足を運んでくれないのではないか」と振り返る。

森川 天喜 旅行・鉄道作家、ジャーナリスト

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もりかわ あき / Aki Morikawa

現在、神奈川県観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。メディア出演、連載多数。近著に『湘南モノレール50年の軌跡』(2023年5月 神奈川新聞社刊)、『かながわ鉄道廃線紀行』(2024年10月 神奈川新聞社刊)など

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