森友問題、責任所在を曖昧にする「Sontaku」 日本の官僚が行った「忖度」とは何なのか

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ソンタクとは本来、「推量、推測、憶測」することを意味し、昔からある言葉だが、日常会話ではほとんど使われない。

朝日新聞によると、この言葉は古代中国の詩に登場し、元々は人の悪巧みを見通す能力を意味していたという。

2016年、80代の明仁天皇は、国民に向けたビデオメッセージの中で、ご自身の年齢と健康を踏まえ、公務を務めていくのが困難となることから、生前退位の意向を示された。

「戦後70年という大きな節目を過ぎ、2年後には平成30年を迎えます」と、2018年に言及され、国民は天皇が今年、退位することを望んでおられるのではないかと、お気持ちを「推し量った」。そこには否定的な含みは全くない。

しかし昨年、森友学園への国有地売却を巡るスキャンダルが発覚し、当時、同学園の理事長を務めていた籠池泰典被告が記者会見で、直接的な利益誘導があったとは考えず、むしろ「ソンタク」があったと思うと語ってから、この言葉が注目されるようになった。

ソンタクは昨年、出版社2社から「今年の新語」に選ばれ、森友問題との関連から、より否定的な意味合いをもつようになった。

「ソンタク」はなぜ問題なのか

森友学園への国有地売却に関与し、決済文書を改ざんした当局者がもし「ソンタク」したのであれば、彼らの上司の不正を証明することは、少なくとも法的には難しい可能性がある。

「安倍首相は強い指導者だ。それ故、官僚たちは直接指示されなくても、不誠実であったり、時には法に触れたりと、さまざまなことを行った」と、ある連立与党議員は匿名で語った。

「だが、安倍首相が直接指示しなかったのであれば、『ソンタク』の問題で終わるだろう。法的責任と政治責任、そして倫理的な責任は異なる」

一方、麻生財務相は、直接指示は下していないものの、財務省の監督責任を問われ、辞任圧力にさらされている。

安倍首相が9月に行われる自由民主党の総裁選挙で勝利し3期目を迎えられるか、それとも早期退陣を迫られるかどうかは、首相の支持率低下があるか、またその低下の度合いによるだろう。

安倍政権が、幹部人事の決定権を手中に収め、霞が関の官僚機構をより強力に掌握しているため、官僚が「ソンタク」する動機となったのかもしれない。ただ、どこであっても職員は上司の意向を汲もうとするものだ。

「上司の顔色をうかがうことは、どこにでもあることだ。だが日本では、それがより高尚な芸術形式にまで進化した」と前出のキングストン教授は語った。

(Linda Sieg 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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