日本は「偽ニュース」のダメージが小さい国だ 伊藤穰一氏が語る「ニュースメディアの課題」

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伊藤:こうした情報コントロールを狙う組織は、ニュースのサイクルに対する入り込み方が巧みだ。

典型的なニュースの流れは、まず第一報がある。多くのメディアが参入して少し盛り上がったところに、そのニュースへのリアクションなど、2回目の大きな波があり、その段階で仕切り直しがある。この2回目の波の瞬間に、情報コントロールを狙う組織がバーっと入ってくるようになった。

参考:『週刊東洋経済』8月26日号特集「教養としてのテクノロジー」では伊藤穰一氏へのロングインタビューを掲載している(雑誌表紙画像をクリックするとアマゾンにサイトにジャンプします)

かつては仕切り直すときには、インテリ系のメディアが入ってきたり、もう1回マスメディアがピックアップして続報を流したり、ということだった。でも今は、そこを担っているのはブログやSNSなどで量産される情報。何千という投稿であふれかえるので、2回めの波をうまく使うと情報をコントロールできてしまう。

山田:とはいえ、ネットメディアで発信された情報は、仮に間違っていたとしても、長期的にみると補正されていく。その意味では、作ったら作りっぱなしになりがちな紙の時代よりもまともになったと考えることもできます。

伊藤:ウィキペディア vs.『ブリタニカ百科事典』のときにウィキペディアが勝ったのと同じで、やっぱり修正できるほうが勝つ。それは間違いない。

振り返ると、日本の「2ちゃんねる」には、今のネットのトレンドがすべて凝縮されていた。話題になっている人を引っ張り出して袋だたきにしたり、フェイクニュース的なものを作ったり。つまり、いま世界で話題になっているフェイクニュース的な手法を輸出したのは日本かもしれない。日本のせいでアメリカでトランプ大統領が生まれたのかもしれない。

いつか振り子を大きく動かすために

山田:本来、オープンでボーダーレスであるはずのインターネットが、閉鎖的で非ボーダーレスなものへと姿を変えてきているのも、逆説的ですよね。

NHK出版から3月8日に刊行された『教養としてのテクノロジー』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

伊藤:世の中は今、閉鎖的で摩擦のある世界に向かって走っている。インターネットもその方向に傾いている。でも、振り子は急には動かないが、またオープンな方向に振れると思う。

たとえば米国で学んだ中国の若い世代が、中国に米国のカルチャーを持ち帰っている。中国の若い世代には、いろいろ未来を考えている人たちも出てきている。今、MITを卒業した中国人が、中国の中でそれなりの立場にいる。中国で一番大きい人工知能の会社もMITの卒業生。あと、シリコンバレーを経た中国人も活躍している。JDドットコムのリチャード・リューやバイドゥのトップがまさにそう。

以前出した自分の本が、中国で『爆裂』というタイトルで出た。本には「権威を疑って自分で考えろ」というようなことをたくさん書いたのに、中国のアマゾンで1位になった。オープンでボーダーレスなインターネットの世界を保ち、いつか振り子を大きく動かすためには、問題意識が高い若い世代や、その次の世代の人たち、前向きでやや反体制的な人たちに力を与え、そうした人々をつないでいくことが重要だと思っている。僕がいまやっているのは、そういうことです。

(構成:加藤 弥)

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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