しかしこのとき、まだ中村さんは進路について悩んでいた。スクールカウンセラーからも「正直、君は理学療法士の仕事は向いていないと思う」と言われた。でも、理学療法士が向いていないと言われたことで、ホッとした気持ちが大きかった。
理学療法士への道をあきらめ、タレントを目指す
理学療法士へのやる気が低下している中、中村さんは芸能活動をしてみたいという夢が芽生え始めた。昔からジャニーズやAKBなどのアイドルに興味があったからだ。そして、芸能事務所のオーディションを受け、無事合格。本部は東京にある事務所だが、九州にも支店があるので、地元のローカル番組やイベントの司会などをこなすタレントになりたいと思っていた。
オーディションでは中村さんのキャラクター性が大いに評価され、チーフディレクターからは「21歳という年齢を考えると賭けだ。やりたいなら今すぐレッスンの合間に営業を経験させ、そこからテレビに出す」と言われた。しかし、「芸能の道を目指すかどうかは国家試験の結果次第だ」と、取材時に中村さんは語っていた。
「ポップコーン現象は物事に集中できないというマイナス面がありますが、良い意味で考えると発想力があるということなのかなと思っています。チーフディレクターからこのキャラクター性を認めていただいたことがとてもうれしかったです。今までは社会から良い意味で捉えてもらえていなかったので」(中村さん)
取材から2週間ほど経った頃、突然中村さんからLINE電話がかかってきた。筆者はちょうど新宿駅で電車から降りたところだったので、片耳を塞いでガヤガヤとした人の声や電車の発車ベルなどを遮断して中村さんの声を拾う。電話の内容は、国家試験に落ちてしまったという報告だった。そして、芸能の道に進むことにしたという。また、今までお世話になった先生や友達、親に感謝のメッセージを伝えたいと中村さん。
「同じ学校の友達は、これから働くうえで、発達障害で悩んでいる方と接する機会もあるかもしれません。発達障害の方とうまく接するために特徴をしっかり捉えてほしいです。同僚に発達障害の方がいた場合、対人関係などで失敗しても悪く捉えないでください。障害の特徴と、個人の長所と短所といった性格をわけて考えてほしいです。
僕は自分の夢のために理学療法士をあきらめ、別の道に進みます。発達障害であることはこれからの人生で不利に働くことがあるかもしれませんが、生まれ持ったものなので耐えていくしかありません。道は違いますが、友達や周りの方々に感謝してこれから自分の夢に向かって頑張っていきたいです。そして、発達障害の僕をここまで育ててくれた親にも感謝しています」
筆者はたまに芸能人の取材をするものの、芸能界に特別詳しいわけではないので、彼がタレントに向いているのかどうかわからない。しかし、みずから発達障害を告白している栗原類さんをはじめ、独特なキャラクター性を活かしてタレントとして成功している人もいる。中村さんは今後、タレントとして活躍できるのだろうか。目指すのがローカルタレントということで、関東の番組で見かけることはないかとは思うが、陰ながら応援したい。
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