日立・松下・東芝 液晶合弁増資の勝算

当初は「国策」の色彩 足元は赤字が急拡大

実は同社の設立に関しては国策の色合いが強かった。もともとIPSパネルの技術は日立本体が保有していたもの。その優位性に真っ先に着目したのが経済産業省だった。「シャープ1社だけではなく、国内に二つの液晶パネルメーカーを」との同省の音頭取りで、2005年1月に合弁設立に至ったのである。液晶パネルの製造工場を持たない松下や東芝が呼びかけに応じた形だった。

IPSα自身は国の旗振りによる設立との見方を否定する。あくまで「松下というテレビ屋がIPSパネルを絶賛したことで合弁設立に踏み切った」との説明だ。しかし、一時は三菱電機や日本ビクター、キヤノン、アルバックも出資者の候補として取りざたされた。幻の「大日本連合構想」だったといっても過言ではない。

そんな「国策液晶パネル」の足元は実際にはどうなのか。現状では業績面で苦戦が続く。生産開始前の04年度は1億円弱の営業赤字、それが年を追うごとに32億円、253億円と膨らみ続けている。06年度末で繰越赤字は309億円に達した。

確かに、稼働率で見れば堅調な推移をたどっている。年産160万台体制で生産を開始したのは昨年6月からで、10~12月期には稼働率が100%に到達した。今年1月から年産250万台に能力を引き上げたため稼働率はいったん落ちたが、東芝が購入を始めたことで盛り返した。松下向けも順調で5月には稼働率が90%台まで回復している。

雪だるま式に拡大する営業赤字について同社は「生産立ち上げで設備の償却負担が大きかっただけで、赤字額に問題はない。年産500万台態勢を構築して初めて黒字化するシナリオ」と意に介さない。そう思わせる好材料があるのは確かだ。

この7月から新たな供給先としてチェコのモジュール工場が操業を始めたのである。同工場は07年末に年産200万台体制を構築する計画だ。そうした欧州での需要増と、日本国内でのシェア拡大を推し進めることで、年産500万台態勢を構築した直後の今年10~12月期にはフル生産を達成できるという。来年1~3月期には四半期ベースで営業黒字転換を果たすというのが、現在、同社が描くシナリオだ。

しかし、そう簡単にいくものなのか。何より、大増産に踏み切る26~37インチ台の液晶パネルは韓国、台湾製の廉価品がひしめく激戦ゾーン。「われわれの液晶パネルは高付加価値品。価格競争にはくみしない。品質の違いがわかる消費者が多い日本と欧州で勝負する」とIPSαでは路線の違いを強調する。ただ、国内の家電量販店でも、国内製の高品質品ですら32インチの液晶テレビが10万円前後の安値で売られている。

IPSパネルが強みとする広視野角、高コンストラスト比という特徴は、評論家の間で依然として評価が高い。ただし、他社製品の品質向上が進むことで、一般消費者にはその違いがわかりにくくなってきているのも事実だろう。

さらに、30インチ台で価格下落が続く中、国内需要はIPSαが手掛けない40インチ台の大型テレビにシフトしている。シャープも32インチで高精細のフルハイビジョン品を投入するなどして、30インチ台の出荷台数を確保するのが精いっぱいのようだ。高付加価値路線を貫き、26~37インチに特化することが、中長期的な成長を見据えるうえで得策かは不透明だ。

今回の増資後も日立DPの出資比率は50%のままで変わらない。他方、松下は30%に上昇、増資を引き受けなかった東芝は15%に低下した。IPSαが日立、松下、東芝各社の持ち分法適用会社であることに変わりはないが、そのスタンスには微妙な変化が現れているようにも映る。IPSαの赤字は出資比率が高いほど、営業外収支の圧迫要因となる。収益の圧迫度合いは松下が東芝の2倍、日立が東芝の3倍超。黒字化シナリオが崩れ、赤字が続けば、3社合弁体制の維持も含め、枠組みの変更に迫られる公算もある。

(撮影:風間仁一郎)

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