ラグビーの伝道師と呼ばれる男たち--神鋼ラグビー部の挑戦
神戸市東灘区御影浜。阪神電車の御影駅から工場地帯を海岸方面に向かうと、周囲に不似合いなレンガ造りのクラブハウスがこつ然と姿を現す。入り口にはこんな言葉が記されている。
「Body of Steel,Heart of Gold.We call them Steelers(鋼の肉体を持った、心優しき男たち。それがスティーラーズである)」
神戸製鋼所ラグビー部、「コベルコスティーラーズ」。1980年代後半から90年代前半にかけて、全国大会7連覇を達成。今年で創部80年を迎える、日本屈指の名門ラグビーチームだ。ただ、近年は中位に甘んじることが多い。2007年シーズンもプレーオフ出場まであと一歩という5位で涙をのんだ。
今シーズンの開幕を目前に控えた9月初旬の午後。浜風に残暑が和らぐ周囲の空気をよそに、練習グラウンドには猛烈な熱気が満ちていた。日本を代表する名プレーヤーだった総監督の平尾誠二は、80年目の抱負をこう語る。「選手たちの体も去年と違って戦える体になってきた。今年は復活の年にしたいね」。
神戸製鋼の復活を期する声は、社内だけにとどまらない。日本ラグビーフットボール協会副会長の真下昇は、「神戸製鋼は日本ラグビー界でもリーディングなチーム。今は力不足だが若い力を結集して頑張ってほしい」と期待を込める。
神戸製鋼に寄せられる「期待」の理由は何なのか。その答えの一端が長野県にあった。
上田市菅平高原。100面以上もの芝生のグラウンドを備え、夏休みともなると日本各地からラガーが合宿のために集まってくる。ここで今年から高校ラグビーの全国大会が開かれることになった。
この大会は、神戸製鋼が4年前の第1回から特別協賛という形でサポートしてきた大会だ。昨年からは名称も自社のブランド名を冠に置き、「KOBELCO(コベルコ)カップ」と改めた。
照りつける太陽の下、楕円球を追いかけ、縦横無尽にピッチを走る選手たち。若さあふれる肉体のぶつかり合いは、「花園」の愛称で有名な、冬の全国大会にも引けを取らない。
ただ、目を見張るプレーの一方で、しばしば連係面の凡ミスが見られた。ベンチの雰囲気も、どこかぎこちない。何かが花園とは違う。
それもそのはず。花園が高校単独チームのトーナメント戦なのに対して、この大会は全国の高校から選抜された選手たちが九つの地域ごとに合同チームを組んでリーグ戦を戦うというもの。即席チーム同士の試合ゆえの課題を抱えるのは当然だ。ただ、それ以上にラグビーができる幸せを全身で表すかのようなはつらつとしたプレーが印象的だった。
この大会を最初に提案したのは、当時、全国高校体育連盟のラグビー専門部長を務めていた、前田嘉昭(現・日本ラグビー協会理事)だ。前田は振り返る。「少子化の影響で、学校単独で15人のラグビーチームを編成できない高校が増えた。彼らにも全国大会という夢を持たせてやりたかった」。
しかし、開催実現のために手探りで動き始めたのはいいが、運営を支援してくれるスポンサー探しに苦労する。ラグビー人気が下火となる中、そんな物好きな企業がいるのか。