ドイツでは数カ月に及ぶ交渉を経て、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)とドイツ社会民主党(SPD)による大連立政権が形を成してきた。ドイツの経済と財政は好調かつ強固であり、懸案となっている改革を推し進めるチャンスだ。だが、新しく樹立されつつある大連立政権は、せっかくの好機を台なしにしてしまうだろう。
というのも、新政権内で語られている財政政策が、トランプ米大統領の政策と恐ろしく似ているからである。トランプ氏の減税策が、限られた一部の層に短期的な恩恵をもたらす一方で、残る多くの人々に巨額のコストを押し付けることになるという点で、多くのエコノミストの見方は一致する。その中でドイツの新政府が議論しているのは、公的年金などの財政支出を拡大する一方で、まさに企業や富裕層に減税を施すことなのだ。
米国と同じことが起こっている
米国では、トランプ氏を支持する低所得層の多くが、減税は富裕層だけでなく、自分たちにも利益をもたらすと信じ込まされている。同じことがドイツでも起きつつある。強力なロビー団体が、減税は中間層に恩恵をもたらすとして有権者を抱き込もうとしているのだ。
たとえば、こうしたロビー団体は、最高税率の適用対象となる課税所得の下限を引き上げれば(=最高税率の適用対象者が減れば)、中所得者にメリットがあると主張している。現時点において、被雇用者全体の7%しか最高税率の対象になっていないにもかかわらず、である。また、東西ドイツ統一後の1990年代初頭に導入された制度により高所得者には課税額が上乗せされているが、これを廃止することで潤うのは、ほぼ上位3割の富裕層だけだ。
こんなことがまかり通れば、事態はさらに悪くなる。なぜなら、上位3割の高所得層は、保有資産を増やし続けているにもかかわらず、課される税率は20年前に比べて下がっている。一方、下位7割は所得が低下傾向にある中で、間接税・直接税の両方で20年前と比べかなり高い税金を納めている。
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