人工肉が「本物の肉」に取って代わる近未来 死のない肉「クォーン」が急成長しているワケ

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ほぼ全てのクォーン製品には卵が含まれており、ビーガン仕様のものはジャガイモのでんぷんで代用している。香料や着色料、タピオカでんぷん、パーム油、エンドウ豆繊維などの成分を掛け合わせ、巧妙に作られている。環境問題に明るいジャーナリストのジョージ・モンビオットが「鶏肉やミンチと区別がつかない」と評したほどだ。

2001年にクォーンはアメリカにも進出した。しかしこの時には米キノコ研究所(American Mushroom Institute)がフザリウム・ベネナタムはキノコでないと反発するなど、順風満帆なスタートではなかった。食の安全を訴えるある団体は、クォーンに起因して、吐き気、嘔吐、下痢、蕁麻疹、時には呼吸困難などの危険なアレルギー反応があったと主張している。

もちろんクォーン側はこれを否定。「当社は30年にわたって約4億個のクォーンを販売しており、記録から優れた安全性を持つことが分かっている」とケビン・ブレナンCEOは説明する。「どの症状も非常に稀で、おそらく15万分の1の割合」で、ジャガイモも同じようなものだと言う。

健康被害で大きな騒ぎはなかったが、アメリカではクォーンの原料をキノコだと思い込んで購入した消費者が騙されたと主張し集団訴訟を起こした。簡単には「キノコ」が原料と説明されるが、キノコとカビの線引きがあやふやだったことが原因とみられる。すでに和解はしているが、クォーン側は自身の不正行為を認めるものではないと強調する。ただ、この一件以来、アメリカで販売されるパッケージには「マイクロプロテインはカビ(真菌の一種)です」と書かれ、イギリスでも同様の文言が添えられるようになった。

人工肉が「本物」になる日も近い?

アメリカ全土で展開する「インポッシブル・バーガー」は、クォーン以上に肉感を追求した人工肉を使ったハンバーガーで人気のレストランだ。植物だけで作られた「死のない肉」のパティがここまで肉々しいのは、SLH(レグヘモグロビン)がカギで、同社はこの成分が血の滴る肉のような味と色を再現してくれると話す。

米食品医薬品局(FDA)は2015年8月にSLHについて「消費のための安全性を確立するには十分ではない」との見解を示している。それでも有害なことが明示されたわけではないため、インポッシブル・バーガーの販売は続いている。

2018年初めには、イギリスの食卓に並ぶ食品の半分以上が「超加工」されていると報告された。家庭料理は工業用添加物と不透明でハイテクな食品で成り立っているという。人工肉が「本物の肉」に取って代わる未来はすぐそこまで来ているかもしれない。

「ニューズウィーク日本版」ウェブ編集部

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