DeNA筒香を輩出「堺ビッグボーイズ」の挑戦 子どもたちの未来のために少年野球を変える

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堺ビッグボーイズの選手数は増えている。4年前から始めた小学生の部も子どもが増えている。しかし、瀬野はそれでよしとしていない。少年野球界全体が縮小すれば、堺ビッグボーイズも成り立たない。だから、自分たちの考え方を少しでも多くの関係者に広げたいと思っている。

「ハードな野球経験者はうちに見学に来ると、首をひねります。目の前で起こっていることが自分でやってきたことと違うからです。”俺はこうやって根性でやってきたのに”という気があるから、頭で理解しても納得できない。

それほど野球経験がない人は、少年野球はなんであんなに長いこと練習してるのか、何で怒鳴られて野球しているのか、以前から疑問に思っていました、と言います。私やコーチの阪長友仁君は、いろいろなところで堺ビッグボーイズのやり方を紹介しています。

現実はほとんど変わりません。暴力、暴言はさすがに少なくなっていますが、投手の酷使は続いている。有名選手が出ているチームも、育成プランでよい人材が出ているわけではなく、偶然そういう素材が生き残っただけです。

こういう話をすると、他のチームの代表から“瀬野さんのチームはいいよ、筒香選手や森選手みたいな有名な選手も出ているし、いいグラウンドもあるし。うちみたいなチームは勝たないと選手が集まらない。それにうちにはそんな意識の高い子どもや親は来ないし”と言われます。

ボーイズリーグを含めた小中学の野球の指導者のほとんどがボランティアで指導をされています。みなさん、子どものためにと思って指導をされているとは思いますが、この仕組みの限界に来ているのでは、と感じています。堺ビッグボーイズはNPO法人組織を作り、若手の指導者をプロ化しています。プロになればいい意味での責任が生まれます。プロとして、大事な子どもの今だけでなく、”将来”を預かる自覚と責任感が生まれます。

指導者として、経験論ではなく勉強もしなければいけません。そういう仕組みの変革もこれからは必要になってくると思います」

子どもたちの将来につながる指導ができているか

瀬野は、ボーイズでの指導は「教育」だという。

「おおまじめに、教育の一環だと思っています。将来、野球で活躍できるように、そして野球をしたことを人生に活かせるように。指導者に一番伝えたいのは、本当に子どもたちの将来につながる指導ができているのか、ということです。

こういうやり方が、全国的に広がってほしい。そういう仲間たちとリーグ戦を戦いたい。野球が好きな子が、思い切り野球を楽しめるようにしたい。野球の競技人口の減少が問題になっていて、普及活動が全国で行われていますが、ただ単に普及活動をするのではなく、どんな野球を教え、子どもたちをどう育てるのかも考えてほしいと思います」

堺ビッグボーイズの挑戦に、少しずつ共感する人が増えている。道は険しいが、「野球離れ」に対する有効な処方せんの一つとして、注目していきたい。

(文中敬称略)

広尾 晃 ライター

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ひろお こう / Kou Hiroo

1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイースト・プレス)、『もし、あの野球選手がこうなっていたら~データで読み解くプロ野球「たられば」ワールド~』(オークラ出版)など。

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