私は息子が死んだ理由を教えてほしいだけだ 19遺族が争う大川小訴訟の控訴審を控えて

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:結審の前に、和解勧告を受けるかどうかという話を、原告の皆さん、そして被告側の市や県に対して裁判所が確認するという聞き取りがありましたよね。その時にどんな話をされたんですか?

佐藤:そもそも、裁判なんて初めてのことですし、全てが初めてのことでした。最終的な結審の時、被告と原告が別々の部屋に入り、その中でまず原告側に裁判官から「和解の意思はありますか」という質問をされました。それに対して我々は、「和解の意思はありません」ということを伝えました。そしたら、「わかりました」という返事がありました。次に裁判官が奥の部屋に行き、帰ってきた時に、「被告側は『条件によりけりで和解に応じたい』という消極的な和解案を示していますけど、みなさんどうしますか」という話を裁判長の方からされました。それに対して我々は、「先程申したように和解に応じる意思はありません」と伝えたら、裁判長が満面の笑みで、「そうですか、わかりました。安心しました」という言葉を我々に伝えました。

:裁判長はどういう思いから「安心しました」という言葉を言われたんでしょうね?

佐藤:あくまでも推測なのですが、やはりこれは大きい問題なので、裁判所側でもしっかりとした判決を書きたいという思いだったのかなと思います。和解となれば、結局は真実が何だったのか実際にわからないまま終わる。推測ですが、そういう結末を裁判所側も、避けてたのかなと思います。和解というのは「何にも残らない」ということになってしまいますからね。

「傷口に塩を塗られるような7年」

:当時大川小学校では、地震発生から津波到達までの51分間、街では津波の襲来に警戒して防災無線などでも「津波が来ます、高台へ逃げてください」という案内もあり、学校内では子どもたちからも「避難をしたい。裏山へ逃げたほうがいい」という声があったものの、学校の先生方の判断でなぜかこの校庭に留まることに。もう避難しなければいけないという時には津波が襲来し、子どもたちがのみ込まれる事態になってしまいました。実際には、教職員11人のうち10人が亡くなりましたが、1人の先生は避難。ところがその先生は裁判でも証言することはなく、実際に親御さんたちは本当の情報を知っている先生からも直接聞き取りをしたいにもかかわらず、それさえ叶わず。県や市側は、「避難は適切だった」という主張を続けてきたんですよね。今回和解には応じられませんでしたが、ご遺族の皆さんは何に一番憤り、何を明らかにしてほしいと思われているんでしょうか?

佐藤:そうですね、一審では我々が勝訴しました。勝訴してまもなく、時間もあけず、宮城県石巻市が翌日控訴のような形で我々を控訴しました。我々は「控訴をしないでください」とお願いをしたんですよ。私たちは再審の裁判をしたくなかったにもかかわらず、二審に持ち込んだのは県と市。それに対して私たちは受け入れるしかない。そして最終のところで、「和解も条件によっては考えます」という、我々からは理解出来ない回答を相手側が出してきた。本当にやるせない気持ちですよね。その結審の後、「本当に和解できなくて残念だ」というコメントを宮城県の村井嘉浩知事、石巻の亀山紘市長、並びに被告側の弁護士さんが言っていると。何を言っているのかなと。我々は争いたくなかったんですよ。一審で終わりにしたかったんですよ。

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