私は息子が死んだ理由を教えてほしいだけだ 19遺族が争う大川小訴訟の控訴審を控えて

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僕は鈴木堅登です。あと1週間で小学校の卒業式だったのに。4月からは楽しみにしていた中学校生活が待っていたのに。レントゲン技師になるために、僕は私立中学校を受験した。合格発表の日、僕の受験番号「98番」を見つけた時は嬉しくて、あの時の感動は今も忘れないよ。でも、その喜びはあっという間で、夢も叶うことはなかった。3月11日、僕達は長い間、校庭で待機させられた。6メートルの津波って聞こえてきて、同級生の雄樹くんと大輔くんが「山に逃げたい」って孝先生に言ったんだ。僕も9日の夜、お父さんに「今度大きい地震がきたら津波が来るから逃げろよ」って言われてたから、すぐにでも校庭から逃げ出したかったんだ。でも、先生の言うことをきかないとダメだし、勝手な行動は許されない。だから、ずっとがまんして避難させてくれるのを待っていたんだ。やっと避難が始まって「良かったぁ」と思って間もなく僕の目の前に、ものすごい高さの津波の壁があらわれて、あっという間に波の渦にのみ込まれてしまった。必ず先生達が助けてくれるって信じてたから、僕達は先生の言うことを聞いて校庭でずっと待っていたんだ。先生達がもっともっと早く安全な場所に逃げさせてくれれば死ななくてすんだんだ。あの時12歳だった僕は、生きていれば今年20歳になる。来年は成人式だ。どんなに楽しい毎日を過ごしていただろう。大学生になっていたかな。車の免許も取っていただろうな。僕達の人生はこれからだったんだ。僕達はもっともっと生きたかったんだ。

「わが子だったとしたら」

村井知事、亀山市長、この場にいる宮城県、石巻市の関係者、子供達の悲痛な思いが、どれほどあなた達の心に刺さりましたか? あなた達は家に帰れば愛しいわが子に会える。抱きしめることもできる。でも私はもう二度と子供達に会うことも触れることもできません。子供に先立たれた親の思いは一生です。子供達がもがき、苦しんで死んでいったように、私も死ぬまで子供達を想い、苦しみ、もがきながら生きるのです。震災当時の大川小の状況を思い浮かべてみてください。そして大川小の子供達が、あなた達のわが子だったとしたら。あの裏山にさえ登れば助かるのに、生き残ることができるのに……そう思いながら、寒さと恐怖の51分間、子供達はどんなにか、あの裏山を恨めしく校庭から見ていたことか。先生達に助けてもらえると信じ続けながら、結局、最期は大量の水と土砂を飲み込み、流木や大きながれきに直撃され、もがき、苦しみながら息絶えて逝った、それがわが子だったとしたら。

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GARDEN編集部

『GARDEN Journalism』(https://gardenjournalism.com/)は、公益事業者の発信を支援するプロジェクトGARDENが運営するニュースメディア。社会問題と向き合い、困っている人たちの一助になろうと奮闘している、NPOやNGO等の方々の活動を取材し、動画と記事で発信している。

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