「喜劇の時代」を生きるための哲学と民主主義 今、世界で最も注目される天才哲学者が語る

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歴史が私たちの選択と関係なく起きることはありません。「自由の意識における進歩」である歴史は、私たちが自由の意識がどちらへ向かうべきか、わかったときのみにつくられるのです。私たちが今行わなければならないのは、トランスヒューマニズムと戦うこと、自分たちが自由ではないという概念と戦うことです。私たちの知らないところで誰かが私たちの行動を決めているという概念と戦うことです。

それから、どこに実際の問題があるのかを再考するために戦うのです。考えてみてください。地球には何百万人もの難民がいるのです。ヨーロッパで難民危機が起きているだけではありません。難民危機は南米など、世界中で起きているのです。アジアやオーストラリアでも難民危機が起きています。1つの危機ではありません。難民は大勢いるのです。

大勢のこの難民が政治的な勢力争いの道具として利用されています。これは奴隷制ぐらい悪いことです。奴隷制は最悪です。ですが今日、私たちが目にしている難民危機も奴隷制ぐらい最悪です。この問題に正しく対処しなければ、私たちは単純に悪だと言わざるを得ません。

この危機に正しく対処すれば、私たちは、歴史を進歩させられるのです。ですから思うに私たちには、まさに現代的な基本的価値観が必要なのです。ポストモダン、つまり〈近代〉の後にやって来る危機を乗り越えるためです。そして基本的価値観とは「普遍主義」です。「自分があの人だったかもしれない」と認識することです。地中海で溺れている女性や、飢えている子供は自分だったかもしれない。それがすべての倫理観の原理です。

民主主義を信じるということ

今私たちが実践している民主主義は、意見の対立を調整するための特定の方法です。それ自体は、問題ありません。私たちにはこの方法の合意と継承が必要なのです。

『欲望の民主主義 分断を越える哲学』(幻冬舎新書)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

だから私はいつも民主主義を潜在的なコミュニティと定義しているのです。それが民主主義です。相手を受け入れれば、あなたは民主主義者です。みんなが自分に同意してくれる状態が好きなら、そうなると満足なら……批判されるのはイヤですよね? いい気分ではありません。ですが、それでもすぐに殺し合うのではなく、つねに相互に批判し合っている状態こそ、民主主義が機能している証拠なのです。それはむしろいいことです。

そして、民主主義が機能するのは、私たちが普遍的価値をこの仕組みのベースとして受け入れたときだけだということも、同時に認識しなければなりません。普遍的価値は他人や他の種の動物の苦しみを理解する人間の度量次第なのです。この度量が民主主義の基盤です。私たちがそれをあきらめて、民主主義の衰退を許せば、あっという間に崩壊するでしょう。

これがまさに現代の民主主義の危機です。繰り返します。民主主義の恩恵を享受する民主主義者が、民主主義を信じなくなる。それが危機なのです。民主主義を信じるということは、みんながきちんとした生活を送れるように助けようとする、ということです。

マルクス・ガブリエル 哲学者、ボン大学教授

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Markus Gabriel

1980年生まれ。ボン大学、ハイデルベルク大学などで学び、史上最年少の29歳でボン大学の哲学科正教授に就任。同大学国際哲学センター長も務める。西洋哲学の伝統に根ざしつつ、「新実在論」を提唱して世界的に注目される。著書に『なぜ世界は存在しないのか』『「私」は脳ではない』(ともに講談社)、『新実存主義』(岩波新書)などがある。

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