米国がイラクをボロボロにして「捨てる」代償

これは新たなる悲劇の始まりかもしれない

米国のISに対する戦略は機能した。したはずである。これは、微妙な内乱などというものではなく、米軍が戦い方を知っている戦争であった。ラマディ、ファルージャ、モスルの奪還は、本格的作戦の戦闘である。スンニ派の都市は、次々と、第二次世界大戦時のドレスデンのように壊滅状態になり (米国は、2014年以来140億ドル以上をIS空爆に投入した)、その後、反乱スンニ派を民族浄化する民兵たちに引き渡された。

600億ドルを費やした2003年から2011年の戦争とは異なり、米国はイラク再建に資金をつぎ込むつもりはない。見積もりでは、主にスンニ派地区である破壊地域を再建し、国内に住む場所を失った278万人のスンニ派に対処するには1000憶ドルが必要になる。シーア派のイラク政府は援助に充てる資金がないと公言している。

莫大なカネと命がイラクで奪われた

2014年以来、米国は2政権にわたり、再建費用として2億6500万ドルしか提供していない(比較のために、米国はイラクへの武器販売の資金調達に2017年だけで1億5000万ドルを充てた。イラクは米国からの武器購入ではトップ10に入っている)。2月にクウェートが復興支援会議を計画している以外は、スンニ派住民はほぼ自力復興するしかない。

トランプがイラクから軍を完全に撤退させることはないだろう。縮小した軍隊がもぐら叩きのようにISの復興を阻止するために駐留し、2011年にオバマが軍を撤退させた後のような政治的な影響に備えて後衛を敷き、ISを壊滅させるために米国が場当たり的に武装させた西イラクとシリアの完全に異なるグループ間の仲裁役を務めることになる。

武装グループはISと戦うために、聖書の時代からの食い違いの大部分を棚上げしてきたが、それが終わった今となれば、彼らに共通するものは、互いのグループへの不信感と大量の武器だけだ。イランと同盟を結んだイラク国内への駐留が永続化する米軍というのも地政学的に奇異であるが、イランは少なくとも消極的には同意している。イランは現在のところ、砂漠にある米国基地の土地をめぐる戦いから得るものはほとんどない。彼らの戦利品は残りのイラク全土なのだから。

5政権、そして26年にわたり、米国は高いカネを支払ってきた。4500名ほどの米国人が命を落とし、何兆ドルもの税金が費やされた。しかし、今や米政府のイラク政府における影響力はかぎられており、イランとの関係は、いまだにオバマ時代のイラン核合意にさかのぼって焦点を当てるトランプ政権下では最悪の状態にある。

イランは、かつてはイラクであったものを寄せ集め、その骨組みから新しいレバノンを作り出している。トランプ政権がイラン政府との外交を行わないと主張するかぎり、米政府が影響力を発揮する方法はほとんどないだろう。中東のほかの国々は、それを知った上で、他国との関係性を多様化させている(ロシアや中国を考えればいい)。これが力を持ちすぎたイラクと米国との将来の紛争を予言するものであるなら、われわれは真に皮肉な悲劇を目撃していることになる。

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