米国がイラクをボロボロにして「捨てる」代償

これは新たなる悲劇の始まりかもしれない

ISから奪還したモスルの今年1月の様子(写真:Khalid Al-Mousily/ロイター)

イラクのハイダル・アル=アバーディ首相は、2017年12月9日、「イスラム国(IS)」に対する勝利宣言をした。戦闘はまだいくらか続くであろうが、本格的な戦争は終わった。しかしパレードはなく、像が引き倒されることもなく、「任務完了」の瞬間もなかった。2、3年前なら米国メディアをにぎわせていただろう事態は、今では大統領のツイートにも値しないものだった。

そもそも、米国政府はISとの「終戦」をほとんど祝う雰囲気にない。イラクに関する次の大きな節目は、5月に予定されている選挙である。IS後のイラクの輪郭は明確になってきている。明確でないのは、ISを倒した戦略が成功と言えるのか、そして米国のイラクにおける戦争がついに終了するのかどうかである。

米国の影響力はすでにほぼない

現在のところ目立つのは、米国の影響力の明白な欠如である。選挙の主な候補者は2名で、アバーディ首相と、ヌーリー・アル=マーリキー前首相である。どちらも同じシーア派のダアワ党で、イランと密接なつながりを持つ。

米国では彼らの名前を覚えている人が少なからずいるかもしれない。マーリキーは、2006年と2010年に米占領軍が大規模撤退する際に、スンニ派、シーア派、クルド人の境界を超えたイラク統一の「偉大なアメリカの希望」であった。一方、アバーディは、2014年に米軍がISと戦うためにイラクに戻ってきた際の「偉大なアメリカの希望」であった。

アバーディは、イランに近いグループを後ろ盾とするシーア派に属しており、自身を超党派連合の指導者であると述べている。彼は、ISに国土の3分の1を占拠されるのを阻止できなかったとして政治家たちから広く非難を浴びたマーリキーを引き継いだ。

首相時代のマーリキーは、米占領下の後年にジョージ・W・ブッシュ元大統領が命じた米軍の数を急増するという約束を守らず、マーリキーの支持者であるシーア派がスンニ派を意のままにした。米軍の最後の戦闘部隊が撤退した日、マーリキーは、自らの政権にいたスンニ派副大統領を逮捕しようとした。

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