「強烈なこだわり」こそが、この世界を変える 経営学者・石倉洋子が見たNIKE創業者の実像
彼も、「若い人たちは、やる気になればもっとなんでもできる、やりたいことがあれば生きられる、パッションは励みになる」ということをおっしゃっていました。やりたいことが見つかって、それができるというのは、すばらしいことです。
「死んでもやれ」はアドバイスにならない
ですが、いまは、何があろうとも自分がやりたいことにこだわるという人は少数で、まあいいや、と妥協する人が多いと個人的には感じています。例えば商品のカテゴリーを分析して判断すれば、これはいけそう、あるいは売れなそうというのは、簡単に結論を下すことができる。
でも一見売れなそうに見えるものでも、こだわってよくしていけば何とかなることもある。靴という商品だって、すごくこだわって、最高にすばらしいものをつくろうと思えば、NIKEのような企業の誕生にまで至るんです。
『シュードッグ』の最後の章で、プロバスケット選手のレブロン・ジェームズがフィル・ナイトに時計を贈ったという話が出てきます。「チャンスをくれた感謝を込めて」という文字を彫った時計です。
アスリートは、タレントと同じで、チャンスを与えられなければなかなか這い上がれない。マイケル・ジョーダンとか、ジョン・マッケンローとか、タイガー・ウッズもそうですが、フィル・ナイトのこだわりで早くから広告塔として採用したり、支援したりしていますよね。そういうこだわりがもたらすチャンスというのも、あると思います。
一方で同書には、「時には断念することも必要だ」とも書いてある。これも印象的な言葉だと思います。以前、堀場製作所創業者の堀場雅夫さんも、「どうがんばってもできないことがある」とおっしゃっていました。成功者のなかには「死んでもやれ」というアドバイスを他人にする人もいるのですが、そうではなく、だめなときもあると。創業者が言う言葉として、意味があると思いました。
――こだわり以外で、ビジネスを成功に導く要素はなんでしょうか?
そもそも、「こうすれば成功する」といった法則のようなものが本当にこの世に存在するのか、私は疑問に思っています。私が参加するいろいろな会合でよく言われるのは、今の時代においては、ストーリーが重要だということ。ストーリーをどう語るかで世界が動く。たとえ客観的に正しいことでも、それだけでは世界は動かないということです。
これは私もそうだと思っていて、私が講演でよく話すのは、今はキャリアも、ライフスタイルも、すべて自分でデザインしてストーリーを語る時代になったということ。逆に言えば、自分のストーリーを他人に書かせないのが重要だということ。
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