「強烈なこだわり」こそが、この世界を変える 経営学者・石倉洋子が見たNIKE創業者の実像
そもそも、今の時代は、戦略とかフレームワークといったものがいっさい通用しない時代になってきている。もちろん、基礎的な知識は重要なんだけれど、それだけにこだわっていると、たいしたことはできません。
そうした基礎を知ったうえで、クリエイティブに考えなくてはいけない。正解がない世界で針路を決めるためには、やはり自分のこだわりやパッションが必要になってくるのです。
パッションの持ち方に正解はない
――ナイキがここまで成功した理由はなんでしょうか?
こだわりだけで突き進むと、だいたいの場合は失敗するのですが、フィル・ナイトの場合は、賭けとハッタリもあり、堅実な面もあり、思いがけず救いの手にも助けられたりして、幸運も持ち合わせていたのでしょう。ナイキの創業と成功は、フィル・ナイトでなければなしえなかったことだと思います。
彼は起業の前に世界を旅して回っています。世界というのはこういうものだと、体感としてわかっていた。それに靴とアスリートへのこだわりが加わって、グローバルな企業に育ったと思います。生産工場を世界に広げていくときの苦労や、搾取労働の問題があってバッシングされたりもしたけれど、それぞれの場面で、ラッキーな正しい決断をして今に至るのではないでしょうか。
起業と言えば、普通は株を公開して金持ちになりたいとか、世界の情報を整理して世界のあらゆる人に提供したいとか、特にテクノロジー系の人はそういうビジネスとしての話をしがち。でもフィル・ナイトはそうではない。「私のこだわりは靴。靴を作りたいんです」という強烈なこだわりと意志を感じました。
――何かにこだわるというのは、成功への要素の1つでしょうか?
それはあると思います。企業は人が集まった組織なので、パッション(情熱)があるかどうかは重要です。『シュードッグ』にも、「みんなが走れば世界は良くなる」という熱い記述がありました。当時、そういうことを言う人はまだいなかった。フィル・ナイトは、パッションの塊のような人。よく知られたところでは、スティーブ・ジョブズのような先見性と情熱を感じます。
私はパッションこそ人生だと思うのですが、講演などでそう話すと、やりたいことが見つからないとか、どうすればパッションを持てますか、と聞かれます。どうも、「正しいパッションの持ち方」という正解があるとみなさん思っているらしい。でも、そんなことはない。自分が好きなものなら対象は何でもいい。パッションは誰でも持っている。パッションの対象を見つけるには、とにかく試してみることです。
著名な建築家の安藤忠雄さんも、すごくこだわりの強い人です。
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