日本は中東欧諸国との関係を深めるべきだ 「懐の深さ」が求められている

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今でも東欧地域(彼らはむしろ「中東欧」という言い方をする)は、お互いに密接な結びつきを持っている。かつてのスラヴ主義運動(1830~1870年代にロシアのインテリゲンチアの一部でもてはやされた宗教的国粋主義的思潮)のように、スラヴ地域といったアイデンティティ、時には旧東欧圏(旧東側諸国)というアイデンティティもある。現在こうした利点を十分に生かせていない中東欧には、かなり大きなストレスがたまっている。

そんな中、2017年に中国の一帯一路という新しいシルクロード政策が北京で始まった。そこにちゃっかりと中東欧の閣僚も出席していた。

一帯一路政策は、経済が成長しつつある地域を含むという点だけでなく、とりわけ陸路による交通の発展という点で東欧の関心をひきつけている。東欧は大西洋から隔絶している点で、大西洋を使った貿易には不利である。ウクライナ、ロシア、モンゴル、カザフスタンなどの地域を通って中国と結び付けば、経済発展に有利である。そこを中国は見逃してはいない。早速昨年暮れにハンガリーで中東欧の国が集まり、中国は多額のインフラ投資を約束した。

中東欧の発展はロシア・中国抜きに考えられない

すでに中国は、かつての旧東欧圏と友好関係をもっていたという経験を生かして、この地域にかなり食い込んでいる。旧東欧圏とロシア、中国とを結ぶ新たな経済関係が発展しつつある。ウクライナ問題は、逆にいえば、そうした旧社会主義圏の巻き返しに対する西側の抵抗と見ることもできる。その意味では、ロシアや中国への制裁、そして北朝鮮への制裁に対して、中東欧はアメリカや西欧のような歩調を必ずしもとれないともいえる。

アメリカや西欧に対するこういった不満が出る背景には、ベルリンの壁崩壊から30年が経つ今、中東欧は期待したほどに経済が発展していない点が挙げられる。当時は、西欧圏に入ればすぐにでも発展するという希望があったが、実際にはそうなっていない。

後背地として地の利のいいドイツ、オーストリアの近郊地域と、賃金が極端に低く西側の投資を受けやすい地域以外は、発展から取り残された感じである。クロアチアなどはまさにそうした地域かもしれない。唯一の産業は観光であり、観光立国として生きるしかない。そしてクロアチアが、シェンゲン協定やユーロ圏加盟に逡巡しているのは、近辺諸国との国境問題や移民問題、経済問題があるからである。

中東欧の発展には、やはりトルコやロシア、さらには中東、中央アジア、中国への回路の存在を抜きに考えられないだろう。今後、この地域が世界経済の牽引役となる可能性は大である。中東欧での安倍外交が、アメリカや西欧に追随し、中東欧にロシア・中国への封じ込めの協力を要請するだけでは、中東欧との関係においてあまり発展性があるとはいえない。

日本と中東欧の関係が発展するとすれば、ロシア・中国との関係改善が前提となる。その上で、ユーラシア大陸に生まれつつある陸路による新しい発展に備えるのであれば、協力できることは多い。そうした意味で、北朝鮮を目の敵にするだけでなく、中国を中心とした新しいユーラシア大陸の経済発展構想にも関心をもつ先見性と、懐の深さが日本にも求められるだろう。

的場 昭弘 神奈川大学 名誉教授

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まとば・あきひろ / Akihiro Matoba

1952年宮崎県生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。日本を代表するマルクス研究者。著書に『超訳「資本論」』全3巻(祥伝社新書)、『一週間de資本論』(NHK出版)、『マルクスだったらこう考える』『ネオ共産主義論』(以上光文社新書)、『未完のマルクス』(平凡社)、『マルクスに誘われて』『未来のプルードン』(以上亜紀書房)、『資本主義全史』(SB新書)。訳書にカール・マルクス『新訳 共産党宣言』(作品社)、ジャック・アタリ『世界精神マルクス』(藤原書店)、『希望と絶望の世界史』、『「19世紀」でわかる世界史講義』『資本主義がわかる「20世紀」世界史』など多数。

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