大江千里、47歳で始めた僕の「ライフ・シフト」

米国での活動から小室さんの引退までを語る

――近著の中で「運命を変えることは難しいかもしれないが、自分がどう生きるかは自分自身が決めることだ」という言葉があります。コンペで選ばれるかどうかは運命のようなもの。でも結果がどうであれ、そこに挑戦するかどうかは全然別の意味がある。

ニューヨークの大学でも、授業の中でオーディションがありました。本当に上手な人が多いから、なかなか選ばれない。でもそこで最善を尽くすと、ちょっと学べる。圧倒的にうまい人を相手に真剣に戦えば、「ああやればいいんだ」と盗める。そして悔しいけれど選ばれないということは、僕はオリジナルを作れということなんだと考える。だからオリジナル曲を作って、レコード会社を起業するという一人ビジネスを始めたんです。

二十歳だったら、迷いはあった

――悔いや迷いはいっさいない?

もし僕が二十歳だったら、迷いはあったと思います。だって、「あれもできる、これもできる」って残酷なくらい選択肢があるから。

1月に発売された新著『ブルックリンでジャズを耕す 52歳から始めるひとりビジネス』(KADOKAWA)(画像をクリックするとアマゾンのページにジャンプします)

でも僕はもう二十歳じゃない。ピアノを練習しすぎるとアスリートと一緒で弾けなくなるから、冷やして、温めて、電気を通してと、いろんな治療をして指を大切にしながら、自分が少しでも美しいと思うものを作る。

それを弾いて、伝えるために必要なエネルギーを、糠床(ぬかどこ)で寝かせるみたいにして自分で増やす。そうしないとエネルギーが腐って、もう終わっちゃうから。昔みたいに、毎日血尿が出るまで走ります!ってことは絶対にしない。だから逆にいうと、こういうふうにして生み出した曲を聞いてもらって、拍手をもらえたら、もうこのうえない喜び。スタンディングオベーションなんて起こったら、手を合わせたいぐらい。

12月31日にトミジャズでカウントダウンライブをやりました。すると1年前と比べて、日本人のお客さんがあんまりいないんです。韓国の人、中国の人、アルゼンチンから来ている俳優さんとかが、スタンディングオベーションしてくれるんです。それがうれしくて。

その夜、Uberで帰ってもよかったんですが、なぜか電車で帰りました。ユニオンスクエア駅で降りたら、DJがいて、カウントダウンのイベントをやっていて、そこら辺でいろんな人種が踊っているんですよ。僕も『ビリー・ジーン』がかかったからちょっと踊ったりして、コロンビア人にスマートフォンを向けられて、「Hey、日本人? 今スマホで生中継しているから、コロンビアで見てる人にメッセージちょうだい!」と言われたから、「大江千里って言います!」って答えました。世界中から来て、夢がまだ実現してないけれどあきらめていない人がみんな集まっているような空間で、すごく示唆的だなって思って、特別な気分になりました。

――素敵な大みそかでしたね。

昨年は米国中西部をライブで回って、いろんな意識が変わりました。今年もきっと、越えていくことがいっぱいある。そうやって1年1年重ねていける57歳って悪くない。だから神さま、あともうちょっと生きさせて! 僕、もうちょっと音楽やりたいんですから! そんな感じの大みそかでした。

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