雲は見上げる存在ではなく「愛でるもの」だ 身近な存在ながらあまり知られていない実態

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では世間一般ではどのような子が地震雲と呼ばれてしまっているのかを見てみると、最も多いのが飛行機雲です。飛行機雲は上空が湿っていれば成長して太くなりますが、観測地点から離れた空のものは遠近法で立っているように見えます。さらに、風下山岳波など上中層の大気重力波に伴う波状雲も地震雲と呼ばれることが多いです。

このような波状雲は地下の異常に伴う重力場変動で発生すると主張される方もいるようですが、大気重力波の発生には大気の状態が非常に重要であり、重力場の変動は無関係です。また、青空と雲の境界がはっきり分かれている場合も地震雲と呼ばれることが多いようです。このときの雲を衛星から確認すると、地上の停滞前線と偏西風に対応する雲が長くのびているのがわかります。

このように気団の境目で青空と雲域が綺麗に分かれるということはごくありふれた現象です。ほかにも、上空の流れに伴って発生する放射状、レンズ状の雲なども地震雲として怖がられることが多いようです。真っ赤な焼け空や深紅の太陽・月も地震に関係するといわれることがありますが、レイリー散乱で説明できます。

最近では彩雲やハロ、アークなどの大気光学現象までもが「これは地震雲ですか?」と私のSNSアカウントに問い合わせが来ます。もはや雲ではないものも含め、何でもかんでも地震と結びつけられているようです。

ここで紹介した雲たちは、普段から空を見上げていれば頻繁に出会える子ばかりです。地震雲という考えは、日常的に空を見ていない方がたまたま空を見上げたときに目に入った雲や、大きな地震の後に見かけた至って普通の雲に当てはめられているように思います。認知心理学の分野で取り扱われるのが良いかもしれませんが、自分の知らない現象を不吉なものとしてカテゴライズして安心しようという心理が働いているのかもしれません。

雲は愛でましょう

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現に「これは地震雲ですか?」と質問をされた方に「これは普通の○○雲です」というと安心されます。それで安心して終わりなのではなく、地震が不安なら日頃から備えましょう。その上で雲は愛でましょう。雲を楽しみながら雲の声を聞けば、天気の変化を観天望気で予測することはできますし、充実した雲ライフが送れるようになります。

面白い雲や空に街ゆく人々が足を止め、雲友のみなさんが思う存分に雲愛を解き放ち、みんなで空を見上げて花を咲かせることができるような、雲愛に満ちた社会になることを私は夢見ています。そのために、まずは雲友のみなさんが充実した雲ライフを送れるようになることを切に願っています。

荒木 健太郎 雲研究者

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あらき けんたろう / Kentaro Araki

気象庁気象研究所研究官・博士(学術)。1984年生まれ。茨城県出身。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務を経て現職。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、豪雨・豪雪などによる気象災害をもたらす雲の仕組み、雲の物理学の研究に取り組んでいる。映画『天気の子』(新海誠監督)気象監修。NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』気象資料提供。著書に『空のふしぎがすべてわかる!すごすぎる天気の図鑑』(KADOAKWA)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)、『雲を愛する技術』(光文社新書)など

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