カズオ・イシグロに賭けた男の譲れない一線 翻訳本をすべて出す早川書房のこだわり
カズオ・イシグロで110万部の大増刷
――ノーベル賞の受賞式はどうでしたか。
ストックホルムはノーベル賞一色でスウェーデン国民がそれを誇りにしていることもよくわかりました。受賞式の雰囲気にも感激しました。さまざまなイベントに出席したり見学したりして、イシグロ氏とも親しく会話できました。もっとも彼は多忙で公式行事がびっしりあるから、私はあまり邪魔にならないようにしていましたが。
――カズオ・イシグロさんの翻訳は、すべて早川書房から出ていますね。11月にノーベル文学賞の受賞が決まった直後に増刷をされました。どれだけ刷ったのですか。
110万部。
――えっ? ずいぶんと思い切った数字ですね。
思い切ったというよりも、取次(とりつぎ=書籍の卸会社)、それに書店からの要望がありましたから。でもいちばんの大本は読者の要望。その要望に応えようということです。
――そんなに刷って大丈夫なのですか。迷いはありませんでしたか。
全然なかったです。もちろん私1人で決めたことではなくて、編集や営業、プロモーションをやっている者たちと相談して決めました。
(大増刷の判断は)欧米の出版社でも当たり前だと思いますね。イシグロさんの本は海外ではフェイバー&フェイバー社で出ていて、日本では早川書房1社です。出版社が2社、3社に散らばっているのではない。「もっと寄越せ」の声に応えるとしたら当然のことです。(売れ行きについて)心配も憂慮もしていません。
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