カズオ・イシグロに賭けた男の譲れない一線 翻訳本をすべて出す早川書房のこだわり
――最終的には社長である早川さんが承認されるのでしょうが、ご自身が「こういう本を出したい。こういう作家を見つけてきたので、出したい」というのは?
あります。自分で取りに行ったのは、10%か15%前後かな。年によって違いはありますが、年間当たり20作品とかそのくらいですかね。原則としては合議制です。編集企画というのはそういうものです。
ただし最終的には私が、売れるも売れないも、全部1人で判断します。責任者ですから当たり前です。(そういう意味で)全部関与しているかといえば、全部関与しています。
現地で情報を集めることが大事
――版権を取るか取らないかをどうやって決めていますか。
翻訳するかしないか、自ら向こう(外国)へ行くことです。現地では、日本にまだ入ってこないニュースとか情報に出合うことがあります。「おお、こんなに熱いんだ」とか、「こんなに熱く語られているんだ」とわかる。そうすると「これは日本で出さない手はないだろう」と考えます。「日本で」っていうのは、「日本の出版社で」というのと、「早川書房で」という2つの意味があります。
今年出したエレナ・フェッランテの『リラとわたし』がそうでした。2011年にイタリアで出版され、その後、数年間にわたり続編も含めて世界的なベストセラーになった本です。私が2年前に知ったとき、アメリカやヨーロッパで相当売れていた。それで、「日本でどこが出すんだろう?」って調べると、どこも版権を得ていない。「どうしてだろう?」と思いました。「日本人はイタリアが大好きなのにおかしいな」と。海外でもなぜかと聞かれたくらいです。
――日本の出版社がきちんとフォローしていなかったっていうことですか。
そうですね。今、イタリアの本はあまり売れませんので、そうだったのかもしれません。
でも、本好きな友人がいれば、必ず引っ掛かってくる本ですよ。そうして引っかかってきた本に間違いはありません。現地の情報は現地に行かないとわかりませんね。本好きな人たちやさまざまな交友関係の中で情報が集まってきます。作家、出版社、(版権の交渉をする)エージェント。それに、外交官、芸術家、ファッション関係者、映画・テレビのプロデューサー、音楽関係などです。
ロンドンだとエージェント以外に会う人は20人くらいいます。イタリアだと10人くらい。フランスも10人くらい。アメリカだと50人はいますね。ドイツはうちの副社長(淳副社長)や編集本部長に任せています。
外国の友人はすべてが本好きというわけではありません。本のこと知らないっていうのもいます。たとえば「俺はテキサスで繊維の仕事をやっているんだ」と。そういう連中と、映画の話、芝居の話をすることも楽しい。おカネに絡んでないから楽しい。
早川のミステリーでも、ミステリー周辺の人口が多くならないと、本は売れません。むしろ周辺に関心がありますね。
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