カズオ・イシグロに賭けた男の譲れない一線 翻訳本をすべて出す早川書房のこだわり

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――ミステリー、SFばかりでなく、マイクル・クライトン氏の『ジュラシック・パーク』、哲学者のマイケル・サンデル氏の著作など、話題作を送り出してきました。全体の刊行点数の中で、ミステリーとそれ以外でどのくらいの割合にするか、といった目安はあるのですか。

そうした目安はありません。むしろ考えているのは、世界でよい評判をとったものは積極的に出していきたい。早川書房のミステリーは英米の作品が多いのですが、イタリア、フランス、それから北欧といった世界のミステリーも出しています。特に北欧のミステリーは人気がありますね。

うちがミステリーやSFをより強く、より充実させるのは当たり前です。それ以外のノンフィクションで早川書房の路線に合うものを出すということです。ですから、360度アンテナを広げて、経営書でも哲学書でもポピュラーサイエンスでも歴史でも出しています。児童書は以前に出しましたが最近はあまりやっていませんでした。今はもう一度充実させようという気構えでいます。

――文芸以外のノンフィクション作品をよく出すようになったのは、いつごろからですか。

私の父が、身の周りにある科学的なものに関心がありました。たとえば動物行動学でコンラート・ローレンツの『ソロモンの指輪』を出しています。最近の話題作だと、経済書でリチャード・セイラーの『行動経済学の逆襲』。ポピュラーサイエンスといったらいいのかな、肩のこらない科学読み物は昔から取り組んでいます。

要は、よいと思うものは出そうということ。社内で検討して、社内で検討できなかったら外の人、その道の学者に読んでもらい、「早川向きでいいんじゃないですか」と言われたら、社内でもう一度ふるいにかけて翻訳の権利を取っています。ノンフィクションを増やしてきたのは、この10年くらいですが、着々と実を結び始めていると思います。

一部では「3冠王」と話題に!

――『行動経済学の逆襲』『重力波は歌う』と、2017年のノーベル経済学賞と物理学賞に関連する本も早川書房でした。一部では「3冠王」と話題になりました。

受賞者の著作や受賞者に取材した作品ですが、これはたまたま重なった偶然です(笑)。

イシグロさんは取るべくして取りましたが、小説に関していえば、ノーベル賞に値する、また近い将来、名前が挙がってくる方の版権を取っていますし、すでに出版しているのもあります。

――翻訳作品は、早川さんご自身が版権獲得に関与するのはどのくらいありますか。

一応、全部ですね。

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