半沢直樹の”便乗商法”にモノ申す
ドラマ「半沢直樹」が強烈に風刺する現実社会

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ドラマ”半沢直樹”が風刺する、社会問題

ドラマ“半沢直樹”の魅力は、現代社会の権力者に対しても一般大衆に対しても、痛烈な風刺が表現されていた点にあり、いくつもの現代社会の欺瞞がえぐり出されていたようにも思える。

登場人物の上司は不正を働き銀行の金を食い物にし、金融庁と結託して不正を働き権力を握ろうとする様が描かれており、これは賄賂や不正な手段で社会の権力を握っている人たちが描かれている。

また銀行員の都合で勝手なリストラが横行して現場がかき乱されているのは、解雇規制の緩和だけが進んで安易な首切りが横行している今の社会と重なるし、旅館と銀行上部が結託して不正融資に及んでいたことは、政治家など権力者よる裏での一部業界への利益誘導を連想させる。

そしてこれらの問題が半沢一人に押し付けられるのは問題が生じれば秘書などがスケープゴートで逮捕や自殺に追いやられる現実と重なっているが、唯一現実とは異なり、被害者の半沢が権力に負けずに倍返し、十倍返しで腐敗した権力者に復讐をする点に、人は”現実には果たせない希望”を託した。

“半沢直樹”の水戸黄門や、遠山の金さんとの違い

半沢直樹にとっての敵は上司である悪徳バンカーなわけだが、視聴者がドラマに共感できたのは、 “10倍返ししたい相手”として、会社の上司や、弱者を切り捨てる政府や、学校のいじめっこや、会社のおつぼねを思い起こすことができ、不正がはびこる閉塞社会のメタファーをそれぞれが抱え持っているからであろう。

この半沢が口汚く上司を罵るシーンは、日ごろ日本人が“本音と建て前”で押し殺して我慢している“本音”をむき出しにしてくれた。そして何かと忍従を美徳とされて我慢を強いられている一般庶民に、「本音で徹底的に、感情的に怒ってもいい」という精神的カタルシスを提供している。

先日の城さんとの対談では、このドラマの醍醐味は勧善懲悪であり、水戸黄門や遠山の金さんにたとえた。しかしドラマを見直してみて思う、水戸黄門や遠山の金さんとの大きな違いは、半沢直樹が“下剋上”だということだ。

権力のある“お上”が悪を懲らしめるのではなく、権力のない弱い立場の半沢が、権力者の不正を追い詰め、制裁する。そこに日頃弱い立場で上に逆らうことのできない多くの人々が、自分の“果しえない復讐願望”を重ね合わせているのだろう。

※ 記事初出時、ドラマ「半沢直樹」とドラマ「リーガルハイ」を混同する記述が一部にございました。お詫びして訂正いたします。

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