一方、「自主的な移住」の中からは、その後半生を祖国ポーランドから離れて暮らしたショパン(1810~1849)の名曲の数々。そして音楽院長を務めるためにアメリカに赴任したドヴォルザーク(1841~1904)の「新世界」や弦楽四重奏「アメリカ」などなど枚挙にいとまがない。
まさに作曲家たちは世界各地を移動しながら名曲を生み出してきたのだろう。今回は特に激動の20世紀を生きた作曲家たちに光を当てるという「ラ・フォル・ジュルネ」。興味のある方は、ぜひゴールデンウィークの音楽祭に備えて予習をしてみてほしい。再現芸術であるクラシックにおいては、知っている曲を聴く楽しみは格別だ。
よりよい音楽祭実現のためには何が必要なのか
さて、懇談会の中では、丸の内と池袋という2つの街で開催される来年の「ラ・フォル・ジュルネ」を楽しむためのさまざまなアイデアも飛び交った。有楽町線を使えば9駅19分(有楽町―池袋)で移動できる地の利を生かすために、定額乗り放題のパスや車内告知、イベントの可能性なども考えられる。さらには、丸の内と池袋それぞれの公演を双方向で上映するライブビューイングなどのアイデアも興味深い。
当初より単なる音楽祭とは一味違う「クラシックのテーマパーク」を標榜してきた「ラ・フォル・ジュルネ」には、「ディズニーランド」の隣に「ディズニーシー」がオープンしたときのような新鮮な喜びと楽しみ、そして強烈なインパクトを世の中に与えることを期待したい。そのためには初開催当時への「原点回帰」が必要なのではないだろうか。
どんなに魅力的なテーマを持ち出したとしても、その内容に踏み込めば踏み込むほど専門色が強くなり、通常のクラシックコンサートと何ら変わらない敷居の高いイベントに思われがちだ。クラシックの特性とでも言えそうなウンチクの重要性も承知しつつ、「何かを聴く」ではなく「そこで何かに出会う」という雰囲気が満載だった14年前のワクワク感をもう一度取り戻してほしいと切に願いたい。
記者懇談会の進行を務めたKAJIMOTO社長、梶本眞秀氏の「当初掲げていた《革新》がいつのまにか《伝統》になってしまったことへの危機感を感じる」という言葉にも説得力がある。有料コンサートのチケットがあれば体験できる、魅力的な無料コンサートやイベントも満載のこの音楽祭では、1枚のチケットがクラシックの扉を開けるすてきなパスポートになるのだから。
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