後継社長が勘違いすれば、会社は確実に沈む 新社長が心得るべき5つのこと

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徳川幕府の2代目、秀忠は、ことあるごとに「ご神君・家康公はこう言っておられた」「こういう考え方であった」と言い、あとに続いた将軍たちもそれに倣って、同じように「ご神君・家康公は」と口癖のように言い続けたようです。それが、徳川幕府が300年続いた1つの理由だと思います。つねに幕府300年の「中心点」「原点」が定まっていた、「座標軸」がぶれなかったということでしょう。いわゆる「権威の活用」が、いかに有効であるかを示しています。

4つ目に、とりわけ2代目社長の心得として書き添えておきたいのが、創業者の思いを血肉にすることです。2代目は、創業者の経営に対する考え方、思いを精緻に研究し、体系化する必要があります。普通、創業者は、昼夜兼行で、がむしゃらに頑張らなければならないため、なかなか経営理念をまとめ、成文化する余裕はありません。また、創業者の存在そのものが、そのまま経営理念だとも言えますから、わざわざまとめる必要もないということにもなります。

そこで2代目の後継者は、その創業者の思い、願いを研究し、体系化する。そして経営理念として成文化し、明確にするという作業が重要になってきます。思い、願いというものは、例えるならば、「水」のようなものです。その水をこれから代々引き継いでいくということになれば、次の人に、次の世代に一滴も漏らさず手渡しすることは不可能です。そこで、その水をいったん凍らせて、「氷」にすることが必要です。その作業が、「経営理念の成文化」、明確化ということです。

しかし、文字に書かれた経営理念は、先述のとおり「氷」。氷でご飯を炊いたり、煮物をすることはできない。ですから、実際の経営の場においては、氷をいったん水にして使わなければならないということは、しっかりと覚えておく、また、実践すべきでしょう。体系化、成文化した経営理念をそのまま活用してはいけない。現実に合わせて、水にして使いこなす。そのことは十分に理解しておくべきだと思います。

3代目をしっかり育成する

もう1つ、5つ目として付け加えておきたいことは同族企業の場合には、特に後継者の育成をきちんと行うことです。特に、2代目の社長は、自身の子息である3代目の育成をしっかりやらなければなりません。組織、会社というものは、3代目がその組織、会社の盛衰の分岐点に、往々にして、なるものです。しかし、3代目の育成はなかなか難しい。昔から「売り家と唐様で書く三代目」という有名な川柳があるように、3代目がうまく育つためには、困難が伴います。

なぜならば、3代目は生まれながらにして「殿様」です。それは創業者の孫でなく、生え抜きであっても同じようなことがいえます。2代目は、創業者の汗を見ている、後ろ姿を見ている。ですから、「こういうときに創業者は汗を流した。こういうときに創業者は涙を流した」ということを知っていますから、その苦労が実感としてよくわかっている。汗を流すこと、涙を流すことの大切さを、尊さを知っています。

しかし、3代目は、創業者の苦闘を知らない。無から有を作り出したときの激闘、必死を知らない。会社は、最初からあるもの、努力せずとも存在しているものと思いがちです。まして、3代目ともなれば、なにより周囲がおだてる。本人がいくらしっかりしていても、そういう環境であれば、考え方が甘くなる。

やがては「バカ殿」になって、「経営など、必死にやらなくても大丈夫だ」「自分は好きなことをして、経営は、周囲の者に任せておけばいい」などと思い違いをして、遊び気分で経営をやってしまうようになる。高層マンションに移り住んで、毎晩のように、ミーティングと称してミニパーティを開く。かくして、会社は、シロアリに食いつぶされ、あっという間に倒産してしまいます。

こうならないようにするためにも、2代目の社長は、後継者、すなわち3代目の育成に、大いに心をもちいていかなければいけません。以上の5点を後継者は、意識して行うことが大事ではないかと思います。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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