まず第1に、前社長に何事も連絡、報告するべきです。ときに、判断を仰ぐことも躊躇してはいけません。心配している前社長も、そのような行動をとることによって安心し、もやもやとした心配が薄れていくと思います。そして3年目くらいからは、必要なこと、重要なことだけを連絡、報告する。おそらく、前社長は、その頃までには「新社長はうまくやってくれている。任せてよかった」と思うようになります。それを過ぎると、前社長のほうから、「もう、キミに任せたのだから、よほどでないかぎり、自分のところに連絡、報告に来なくていいぞ」と言ってくるでしょう。
後継者でトラブルが起きるパターンは決まっています。前社長が心配していることを知っていながら、新社長が前社長の心配を無視することです。結果、お家騒動になる。そのようなトラブルを避けるためにも、後継者たる新社長は、心ならずであろうとも、そのようなことを心掛ける必要があるのです。まずは、これが鉄則といえます。
創業者に協力してきた先輩たちには自負がある
第2に、新社長は謙虚であらねばならないということです。そのためには、先輩諸氏、周囲の人たちに意見を求める必要があります。いわゆる、衆知を集めるということが極めて大切になるのではないかと思います。
たとえば、ベンチャーを立ち上げ、懸命に事業に取り組み、無から有を作り出した創業者に協力してきた先輩、あるいは同輩の人たちには、それなりの自負がありますし、強い意識があります。
そのような中で事業を引き継ぐのですから、後継者たる新社長は、腰を低くして、先輩、同輩、後輩から教えを請うという姿勢がなければいけません。それを勘違いして、「自分が事業を引き継いだのだから、会社は自分独自の考えで進める。今までの考え、経営方針をすべて破壊し、私の考える方針に切り替える。あなた方の意見、提案を聞くようなことはしません」という意識で引き継ぐ新社長がいかに多いことか。
これをやってしまうと、社内に重苦しい空気が充満し始めます。社内の風はよどみ、不平不満が充満します。仕事はつねに組織プレー。お互いに軽やかな気持ちで、さわやかな風の中でこそ、大きな成果が上がるものです。にもかかわらず、周囲に反感が出てくれば、その協力も得られない。必然、大きな経営成果も得られないということになります。
「皆さんの協力をいただかなければ、円滑に経営を進めていくことはできません。ご指導ください。お力をお貸しください。ご助言ください」。そのような謙虚な姿勢であれば、社内もまとまり「いやいや、あなたもしっかりしているし、実力もあるのだから、思う存分やればいい。協力しますよ」ということになります。それが人情というものでしょう。
3つ目は、創業者や前社長の権威を積極的に活用するべきです。「自分はこう思う」と言うのではなく、「かつて創業者はこのように言っています」とか「創業当初の先輩に尋ねたら、このように言っておりました」というようなことを社員に話し、指示をする。自分の考えであっても、創業者、先輩、前社長の言葉を借りて、話をするように心掛けるべきです。
そうすれば、先輩社員も「苦楽を共にした前社長は、確かにそのように言っていた。なるほどなるほど」と感じ入ることになる。それに加えて、創業者の思いを新社長が自分自身の口であらためて語ることの意味は大きいのです。これによって、創業の精神、考え方が社内に貫かれるということになります。また社員も、創業精神を理解して敬っている社長を「立派な社長だ」と思うことでしょう。ここに謙虚さも加われば、社員は次のように感じるはずです。「新社長は自分たちの話も聞いてくれるらしい」。
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