人工知能が出す「最適解」が人事担当者を救う 退職率をAI人事で引き下げることができる?

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人工知能が退職の予兆があると判断してきた3人のうち、2人については宮川さんも同じ意見だった。しかし、残りの1人は、宮川さんが今後を期待している社員だった。

「この社員に対しては、もう少し突っ込んだ面談が必要だったのかなと考えています。私が気づけなかった、性格的な部分も含めて、今の人工知能が文章だけで社員の正直な気持ちをここまで読み取ることができるのには驚きました」

人間と違い、迷いもなくただ1つの答えを突きつけてくる人工知能。人間を判断するという絶対的な正解のない仕事の中で宮川さんが直面しているのは、自分と異なる人工知能の「最適解」をどう受け入れるかという、いわば人類初めての体験だ。人工知能の能力そのものへの驚き。それを実際に現場で使うことになった戸惑い。言葉を慎重に選びながら話す宮川さんからは、そんな感情が伝わってきた。それでも、宮川さんは人工知能の活用自体については前向きにとらえていた。

「人工知能が出してくる判断を基に面談してみるのも、1つの方法なのかなと思います。私の考えだけが正しいとは思っていないので、今後使っていく中で、逆に今まで私が見られてない部分がたくさん出てくるかもしれませんし、自分自身のレベルアップにもつなげていきたいですね」

宮川さんの戸惑いに対し、「最適解は状況に応じて、変わっていくものだと思っています」と採用企画部の菊池氏は受け止めた。

「当社のビジネスの状況、あるいは社員それぞれの状況に応じて、辞める理由も変わってくると思います。それを人工知能が自動的に学習するのは難しいでしょう。ですから、人工知能が出してくる最適解が本当に正しいのかどうか、人間がチューニングしていく作業がどこかで必要になっていくはずです」

人間の機微を理解する人工知能

ソラスト社が導入した、人工知能「KIBIT(キビット)」は、人工知能関連技術と行動情報科学を基に、独自に開発された日本発の人工知能エンジンである。開発したのは、文章解析を専門とする人工知能で世界をリードする業績を挙げているフロンテオ社だ。

同社・行動情報科学研究所所長の武田秀樹氏は次のように話す。

「『社内ビッグデータ』とも言われますが、今、多くの企業で、扱うデータ量が増大しており、必要な情報をすぐに見つけるのが困難という状況があります。それがわが社の技術を活用するニーズを生んだということです」

キビットは、文章を解析する際、単語や接続詞、助詞、使う順番といった構成要素を読み込み、教師データの特徴と照らし合わせて答えを導き出す。

「そもそも人工知能は機械ですので、人間のように意味を理解したり、心理を読んだりするわけではありません。イメージとしては、キーワード検索というより文章検索です。意味の最小単位としてキーワードのようなものを見ているのは間違いないのですが、あるキーワードが入っているかどうかという点だけに着目するのではなく、文章全体におけるキーワードの総合的な価値を見ているという感じでしょうか」

次ページ因果関係で考える人間と、相関関係でとらえる機械
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