その「教養のポップ化」の「ポップ」の要素を、極端かつ過激に解釈し、この本を超える大ヒットとなったのが、シリーズ累計270万部を超えるベストセラーになった『うんこ漢字ドリル』(文響社)だ。文響社によれば、12月4日時点で279.2万部に達しているという。
「ノスタルジー読書」という需要
『漫画 君たちはどう生きるか』について、さらに深く見ていく。この本のターゲットは誰かという視点だ。もちろん80万部を突破した大ヒットなのだから、幅広い層に受け入れられているのだが、注目したいのは、初めに食いついた=市場の中核を形成した層がどこかという点である。
マガジンハウスによれば、『漫画 君たちはどう生きるか』に寄せられた読者からの声を見ると、小学生から老人まで「老若男女」と呼ぶにふさわしい年齢層から賛辞が送られているようだが、発売当初は、特に40代後半~60代前半の男性が中心だったという。
「40代後半~60代前半」=つまり年齢が上の層からまず火が付いて、下の層に波及した。これがこの本のターゲット拡大構造なのである。
つまり、この本の大ヒットへの「最初の一滴」は、50代以上の「あのころ夢中になって読んだ本を再読したい」需要=言わば「ノスタルジー読書」というべき需要だったのである。
この需要構造は、書籍市場としては新鮮なものであるが、音楽市場では、完全に定着しているものだ。たとえば、今年5月に発売された、ザ・ビートルズ『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド―50周年記念エディション-』のヒットなど、まさに「ノスタルジー音楽」需要以外の何物でもない。
もちろん単なる復刊本では、ここまでのヒットとはならなかっただろう。読書ストレスを軽減する漫画化というアイデアは、高年齢層にも強く効いたはずだ。
高年齢層から火が付いたとして、その火は、下の層にどう広がったのか。書籍や音楽などのカルチャー市場は、世代と強くひも付いたものだ。他の商品市場と比べて、顧客層が広がりにくい傾向にある。
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