「かけ算が最強の発想」という大いなる誤解 本質が際立つのはむしろ引き算だ

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私が主に研究している「不便益」(不便だからこそ得られるメリット)の観点から考察すると、われわれの周りにある便利なモノは「足し算」でできていることが多い。ただ、電子レンジでもスマホでもPCでも、使いもしない機能がてんこ盛りになっている機械は多く、マニアには「こんなこともできるんだ」とうれしいお得感があるかもしれないが、ほとんどの人にとっては意味をなさない。何かを「足す」時点で、実はそのモノが持つ「本質」を薄めてしまっている確率は高くなるのだ。

ではなぜ、人々はアイデアを「足し算」で考えようとするのか。

1つには、どんどん機能が付け足された「便利なモノ」ばかりが目に入るので、「便利」こそが正義だと思い込んでしまい、私たちが発想をする際にも目にするさまざまな多機能なモノの影響を受けて「何かと何かを組み合わせる」ように頭は思考しがちになることが挙げられる。

もう1つの理由としては、アイデアを作る側にとって「足し算で発想」するのが比較的容易だということがあるだろう。

「珍しい鉛筆を作れ」と言われたとき、足し算なら(形になるかどうか、ビジネス的に成り立つかどうかはともかく)どんどんアイデアが浮かんできやすい。

「消しゴム付き鉛筆」ならぬ、腹が減ったらすぐにかじれる「ドーナツ付き鉛筆」、「香り付き鉛筆」「カメラ付き鉛筆」……。足し算の場合、「鉛筆」という原型があるわけだから、あとはそこにくっつけるモノをチョイスすればよく、割合思いつきやすい。

「足し算」で新しいモノを生み出すのは、実はかなりリスキーといえる。なぜなら「足すは無限」、数が膨大すぎるから。足し算でモノを作っていくと、足すモノは無限に存在するのでバリエーションも無限に増えていく。大量のモノがザクザクとできていく中、「いいモノ」を作るというのは難しい。

足し算、あるいはかけ算で大ヒットが出る可能性もあるが、何と何を足すかの組み合わせは今の物質飽和時代、無限にあるのだから、その中で「最高の組み合わせ!」となるのはほとんどギャンブル的な確率となるだろう。

「リンゴをかじる」ように考える

こう考えると、良い発想をするには、足し算より「引き算」がよさそうだ。「足す」が無限なら、「引く」は有限。それにアイデアの場合、いくら引いてもマイナスにはならない。「鉛筆に何かを足す」なら組み合わせは無限だが、「鉛筆から何を引けるか」といえば限られてくる。

以上を踏まえると、シンボリックなマークとして定着しているAppleのロゴマークのリンゴも、何か足してもよかったところを、あえて一口かじって「引いて」あるのはさすがなのだろうか? iPhoneも携帯電話からたくさんのボタンを引いたといわれている。

「同じ機能ならシンプルなほうがいい」というのは、デザイン学の分野では古くから「オッカムの剃刀」として知られている。中世イギリスの神学者ウィリアム・オッカムが言うところには、「不要なものは切り捨てよ、物事をシンプルにとらえよ」とのこと。できるだけ要素を絞ってシンプルに考えることこそが、アイデアの秘訣であることは何百年も前からいわれてきたことだったのだ。

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